実験小説の季節

出張の夜、学生時代の飲み会ではいつも二次会に立ち寄っていた飲み屋にて、恩師・先輩と飲み、別れたあとはホテルまでまっすぐ戻らず、わざと人通りの多い道を遠回りして帰った。変わってしまった仙台の町をたしかめたいということもあった。 広瀬通と東二番…

いつしか遠く旅したと

生誕100年藤牧義夫展 モダン都市の光と影@神奈川県立近代美術館鎌倉館 昨年7月、藤牧の郷里館林にある群馬県立館林美術館で開催された藤牧義夫展のときは、会期の比較的早い時期に観にいったが(→2011/7/30条)、今回は最終日にぎりぎり間に合った。それに…

鎮魂の書

堀江敏幸さんの新刊書評集『振り子で言葉を探るように』*1(毎日新聞社)に収められた小沼丹作品の書評を読んでいたら、猛烈に小沼さんの小説を読みたくなった。それは「幸せな不意打ち」と題された『風光る丘』評のこんなくだりである。あちこちで笑いをと…

西片町と阿部家

「収蔵品展 伯爵家のまちづくり―学者町・西片の誕生―」@文京ふるさと歴史館 18日までということで、昼休みに観にいく。ぎりぎり間に合った。特別展・企画展というほど大規模なものでなく、地下の展示室を全面使ったものではないこぢんまりとした展覧会であ…

都市から郊外へ

「都市から郊外へ―1930年代の東京」@世田谷文学館 川本さんの『白秋望景』を集中して読む時間と空間を確保したいという気持ちもあって、雨のため子どものサッカーへのつきあいがなくなった土曜日、電車を乗りついで烏山の世田谷文学館へと足を運んだ。この…

雪よ林檎の香のごとく

川本三郎さんの新刊『白秋望景』*1(新書館)が出たことを知らなかったのは、川本ファンとして痛恨事だった。なにかの新刊案内で見たおぼえはあるのだがそのまま忘れ、別の新刊『時には漫画の話を』*2(小学館)の著者紹介中に『白秋望景』とあったのを見て…

わがユーミンおぼえがき

わたしが一番好きな歌い手は、いまもむかしも松任谷(荒井)由実である。 なぜ唐突にこんなことを書きだしたかというと、最近就寝前などにYou Tubeを見ることが多く、そこにたくさんアップされているユーミンの曲を聴き、関連動画のつながりで「あれも、これ…

寺田寅彦についての本に弱い

小山慶太さんの『寺田寅彦 漱石、レイリー卿と和魂洋才の物理学』*1(中公新書)を読み終えた。著者の小山さんは早稲田大学の先生。理学博士とあり、物理学史や啓蒙的な科学書などの著作がある。寺田寅彦とおなじ専門の先生なのだろう。 本書は物理学者から…

時代と心中するということ

『沙漠に日が落ちて 二村定一伝』*1(毛利眞人著、講談社)という本が出ることを新刊案内で知ったときに感じたのは、「色川武大さんがたしか書いていた人だ」「エノケンとコンビを組んでいた人だ」というほどのものであった。 刊行後さっそく購入し、読む前…

再読してわが身の変化を憂う

岩波現代文庫に入った川本三郎さんの『郊外の文学誌』*1を読み終えた。 この本の元版*2が新潮社から出たのは、2003年2月のこと。とおして読むのは約9年ぶりのことになる。わたしは3月2日に感想を書いている(「都市東京にはたらく遠心力」と題してさるさる日…

島崎雪子の芳兵衛

よみがえる日本映画 vol.3新東宝篇@東京国立近代美術館フィルムセンター 「もぐら横丁」(1953年、新東宝) 監督・脚本清水宏/原作尾崎一雄/脚本吉村公三郎/佐野周二/島崎雪子/日守新一/宇野重吉/若山セツ子/森繁久彌/千秋実/和田孝/田中春男/…

ライン・シリーズ マジック1

よみがえる日本映画 vol.3新東宝篇@東京国立近代美術館フィルムセンター 「黒線地帯」(1960年、新東宝) 監督・脚本石井輝男/脚本宮川一郎/天知茂/三原葉子/三ツ矢歌子/細川俊夫/瀬戸麗子/矢代京子/魚住純子/鮎川浩/宗方祐二/大友純 今週はなぜ…

日活アクションのはざまに咲いた花

現代文学栄華館―昭和の流行作家たち@ラピュタ阿佐ヶ谷 「硫黄島」(1959年、日活) 監督宇野重吉/原作菊村到/脚本八住利雄/美術木村威夫/大坂志郎/小高雄二/芦川いづみ/佐野浅夫/小沢栄太郎/山内明/芦田伸介/渡辺美佐子 新聞記者の小高雄二は、…

贅沢な時間のなかで

昨年読んだものの感想を書きそこねた本を書棚に探して、一冊一冊読んだときの記憶を呼び起こそうと苦労した。苦労のあとは昨年の大晦日に書いたとおりである(→2011/12/31条)。 そこの一番最後に書いたのが、関容子さんによる詩人堀口大學の聞書『日本の鶯…

本を読んで人生を考える

連休前に新刊本(といってもすべて昨年出た本だが)3冊を購った。それらすべてをこの連休中(しかもまだ二日目だ)に読み終えてしまった。めずらしいことである。「買った本すべてを読むわけではない」。本好きにとってしごくあたりまえの原則だが、実際読み…

横溝ブームのドキュメント

今年は帰省をしなかったため、食っちゃ寝の寝正月であった(帰省しても寝正月には変わりないのだが)。少し身体を動かしておかないと、仕事始め後の日常生活に差しつかえるという危惧もあったので、妻と次男と三人で隣町にあるブックオフまで歩いて往復する…

読んだ本落穂拾い

今年の前半は自分の本を書き上げることで一杯一杯だった。しかしながら後半は、読書の量も映画を観る頻度もかつての感覚をだいぶ取り戻してきたように思う。といっても、まだまだ時間や気持ちに余裕がなく、かつてのように読みながら感想を書くためにポイン…

『蒲生邸事件』再読

『蒲生邸事件』は、わたしが初めて読んだ記念すべき宮部みゆき作品である。2000年10月に文春文庫に入ったものを購い、約一ヶ月後の11月に読み終えている(→旧読前読後2000/11/4条)。その後妻がわたし以上の宮部ファンになり、自分が持っていた宮部さんの本…

『霧と影』の原作と映画

先日ラピュタ阿佐ヶ谷にて「霧と影」を観たあと、買ったまま積ん読してあった水上勉さんの原作(新潮文庫)を読むことにした。この『霧と影』こそ、水上社会派ミステリの第一作であったと記憶していたからである。 この作品がたいへんな難産のすえ生み出され…

「幕末太陽傳」再見

ヒューマントラストシネマ有楽町 「幕末太陽傳 デジタル修復版」(1957年、日活)※二度目 監督川島雄三/フランキー堺/南田洋子/左幸子/石原裕次郎/金子信雄/山岡久乃/芦川いづみ/小沢昭一/二谷英明/小林旭/菅井きん/西村晃/植村謙二郎/殿山泰…

巴水を買いに

平木浮世絵美術館 クリスマスで賑わうららぽーと豊洲の平木浮世絵美術館に行く。 先日ここを訪れたとき(→11/26条)、川瀬巴水の版画作品が限定販売(70枚)されていたのを知り(もっとも知ったのは会場でなくホームページだったかもしれない)、心を動かさ…

白くない白鬚橋

昭和の銀幕に輝くヒロイン第62弾 水野久美@ラピュタ阿佐ヶ谷 「二人だけの橋」(1958年、東宝) 監督・脚本丸山誠治/原作早乙女勝元/脚本楠田芳子/久保明/水野久美/加東大介/三井弘次/中北千枝子/千秋実/飯田蝶子/浦辺粂子/左卜全/瀬良明/久保…

50年を隔てた犯罪映画ふたつ

現代文学栄華館―昭和の流行作家たち@ラピュタ阿佐ヶ谷 「霧と影」(1961年、ニュー東映東京) 監督・脚本石井輝男/原作水上勉/脚本高岩肇/丹波哲郎/梅宮辰夫/亀石征一郎/水上竜子/鳳八千代/安井昌二/永井智雄/柳永二郎 テアトル新宿 「恋の罪」(…

わたしの好きな文体

湯川豊さんの『須賀敦子を読む』*1(新潮文庫)を読みながら頭で考えていたのは、「自分の好きな文体」についてだった。湯川さんの本のおかげで、それを人に説明できるところまでまとまってきたように思う。 もちろんそのなかには、『須賀敦子を読む』に展開…

本を読んでみるものだ

本を買って、読むきっかけにはさまざまあるだろう。著者、書名、テーマ…。その意味では、津野海太郎さんの『ジェローム・ロビンスが死んだ なぜ彼は密告者になったのか?』*1(小学館文庫)は、著者ということになるのだろうか。といっても、津野さんが出し…

新著のことども

わたしにとって3冊目の著書となる『記憶の歴史学 史料に見る戦国』*1(講談社選書メチエ)は、いちおう今日が発売日となっている。 いままでの本の購入者としての経験上、土曜日が発売日になっているばあい、その日に店頭に並ぶということはふつうないのだろ…

背中との出会い

洗面所から廊下(というほど立派ではなく、狭い通路)をはさんで向かい側に、わたしの本置き部屋がある。夜ねむる前に歯をみがきながら、わが本棚をぼんやり眺めて悦に入るのが日課となっている。心が落ちつくひとときである。 吉田篤弘さんの『木挽町月光夜…

原敬・日記・特別室

原奎一郎さんの『ふだん着の原敬』*1(中公文庫)を読み終えた。 この本を買ったきっかけは、著者にある。もちろん原敬にまったく興味がなかったわけではない。といっても、研究者としての興味ではない。平民宰相、おなじ東北出身(原敬は岩手)という、どち…

洲崎パラダイス縦断

石版画のパイオニア 織田一磨展 「東京風景」と「大阪風景」@平木浮世絵美術館 池袋にある某大学にて開催された某学会に出席し、聴きたかった報告がすんで休み時間に入るとすぐ有楽町線に乗って豊洲まで出た。目指すは、ららぽーと豊洲にある平木浮世絵美術…

裸体画づくし

ぬぐ絵画 日本のヌード1880-1945@東京国立近代美術館 締切が迫った仕事の校正のため、竹橋の国立公文書館に行く。そのあとはお決まりのコース。隣の近代美術館へ。金曜は20時までということで、公文書館の開館時間ぎりぎりまで調べ物をしても、余裕で観るこ…