都市から郊外へ

川本さんの『白秋望景』を集中して読む時間と空間を確保したいという気持ちもあって、雨のため子どものサッカーへのつきあいがなくなった土曜日、電車を乗りついで烏山の世田谷文学館へと足を運んだ。この前の和田誠展のとき(→2011/7/31条)は車で訪れた。電車よりは車のほうが早いけれど、いかんせん本が読めない。二度乗り換えするなど時間がかかって面倒なのだが、今回にかぎっては、そのほうが好都合だった。おかげで読み終えることができたのだから。
この展覧会は、世田谷美術館との共催で、世田谷を中心とした東京(つまり都心と郊外)の1930年代を、文学作品、絵画・彫刻作品、写真、版画、映画、音楽、住宅、広告など、さまざまな角度から浮かび上がらせるという好企画。たくさんの作家が住み、東宝撮影所を擁した世田谷区らしい展覧会だった。
作家としては、『少年探偵団』で世田谷を舞台にした乱歩のほか、白秋まで取り上げられており、川本さんの本とのシンクロに驚いた。白秋は子どもの通学(成城学園)の関係で、それまで住んでいた小田原から砧や成城に転居したのだという。世田谷時代の白秋について、川本さんの本ではほとんど触れられていなかったため、それを補うちょうどいい展示となっていた。
白秋の世田谷の住まいからは東宝(当時P.C.L.)の撮影所が見えたそうで、「雪の晴P.C.L.の白屋根は赤外線に見る近さなり」といった撮影所を詠んだ歌がいくつかあるのだという。「雪」「白屋根」「赤外線」といった色彩のことばから、そこはかとなくモダンな香りがただよってくる。
版画は稲垣知雄、写真は桑原甲子雄の作品が並んでいた。とくに桑原甲子雄の写真はいつ見てもすばらしい。いずれ作品集を手もとに置いておきたいと思わせる写真家である。