いつしか遠く旅したと

藤牧義夫展

昨年7月、藤牧の郷里館林にある群馬県立館林美術館で開催された藤牧義夫展のときは、会期の比較的早い時期に観にいったが(→2011/7/30条)、今回は最終日にぎりぎり間に合った。それにしても、館林で観てから半年が経ってしまったとは、時の過ぎるのは早いものだ。
松任谷由実の曲のうち、最近もっとも気に入って聴いている「さまよいの果て波は寄せる」(『悲しいほどお天気』収録)のなかに、「夢中になれる何かが明日へいざない/いつしか遠く旅したとあなたに告げる」という印象深いフレーズがある。まさにそんな心境だ。
「いつしか遠く旅した」といえば、鶴岡八幡宮。展覧会を観終え、八幡宮の参道に直交する流鏑馬の馬場道に立つ。いまからかれこれ15年以上も前のこと、まだ仙台に暮らしていたおり、大学の恩師を囲んで、同学の先輩後輩らと一緒に「鶴岡八幡宮流鏑馬見学ツアー」をおこなった。そのときは葉山に宿泊し、愉快な思い出もたくさんあった楽しい旅であった。そのとき企画の中心となった後輩は、数年前突然の病でこの世を去った。彼の姿をそこに幻視せんため、馬場道のわれわれが見物のため陣取ったあたりに黙禱を捧げる。あれから15年以上の時が過ぎた。長い年月であったが、「夢中になれる何か」によって「明日へいざな」われ、「いつしか遠く旅し」てきたことを、八幡宮の馬場道の光景により一瞬にして悟った。
さて藤牧義夫展。館林で観た白描絵巻は、白鬚橋周辺の一巻と三囲神社中心の一巻であった。今回さいわいなことに、そのとき観ることが叶わなかった隅田川下流の一巻と、申孝園の一巻を観ることができた。会場のスペースを生かして、全部横長に広げて見せているから、最初から最後まで、目線は絵巻に合わせて、蟹のように足を横に動かして観ることができた。
藤牧の版画は発表媒体(雑誌)のためもあってか、色合いに乏しく、白黒二色で表現されているものが多い。ところがそれを逆手にとって、だからこそ、東京の夜景がそのふたつの色のなかに見事に表現されていると言える。「夜の浅草六区」などが代表か。
鎌倉には車で行った。家族四人であれば電車よりも経済的と考えてのことだが、やはり思ったとおり無謀なこころみであった。美術館と八幡宮を訪れただけで、頼朝墓所鎌倉宮などに車で近づくこともままならず、そのまま朝比奈から早々に退散する。せっかく近くに来たので八景島シーパラダイスにでもと車を向けたが、ここも駐車場に停めようとする車の列に辟易して退散する。
昼食を食べ損ねたので、そこから横浜中華街へ。カーナビの設定がまずく、中華街のど真ん中、車一台分が通れるような細い道に歩く人たちが群がっているところにまさに「突入」して冷や汗をかいた。鎌倉といい、中華街といい、いやはや田舎者はこれだから困ってしまう。