2004-01-01から1年間の記事一覧

サラリーマン小説今昔

先月、中公文庫の「人生の一冊」シリーズとして、松本清張『実感的人生論』と源氏鶏太『わたしの人生案内』が刊行された。いまブームまっただ中の清張はともかく、なぜ源氏鶏太なのだろう。不況でサラリーマン社会が揺らぎつつあるなか、サラリーマン小説の…

「随時小酌」の精神

今日も昨日につづいて『東京人』連載がまとめられた本の話。今日の本はつい最近まで連載されていた文章だ。 川本三郎さんの新著『我もまた渚を枕―東京近郊ひとり旅』*1(晶文社)を読んだ。『東京人』連載の「東京近郊泊まり歩き」がまとめられたもので、先…

行間にたくさんの人生がある

「しょうぎたい」とキーボードで打ち込んでスペースキーを叩く。わがATOKは「将棋対」と変換した。これを取り消しあらためて「しょうぎたい」すべてを変換対象にしても、この6文字のひらがなはひとつづきの文字として漢字に変換されない。「しょうぎたい」、…

東京堂でサイン本、そして…

オフ会の前に東京堂書店に立ち寄り、最近出た新刊のサイン本を購入。 ★鹿島茂『怪帝ナポレオン三世』(講談社) だんだん鹿島さんの本が「大著化」しているような気がする。『情念戦争』といい。ISBN:4062125900 ★坪内祐三『文庫本福袋』(文藝春秋) 今日発…

第2回本のドラフト会議報告

種村サイトのやっきさん、鹿島・堀江サイトの齋藤さんと拙サイトの3サイト合同の忘年オフ会を神保町で開催した。余興として、一昨年の忘年オフ会(やっきさんと私との合同オフだった)で開催した「本のドラフト会議」の二回目をやろうというやっきさんからの…

再読でも面白い松本清張

先日ある書友と飲んだとき、「あの本買いました?」「この本は?」と聞かれ、返答に窮した。先方はいかにも私が買いそうな本をあげてくださったのだが、諸事情で買っていない本が多かったからだ。もっとも店頭で見かけたとき一度は手に取り迷った本ばかりな…

読書スピードと読む本の関係

本を読む早さはみんなどれくらいなのだろう。個人差はあろうが、私の場合、東京に来るまでは60頁/h(つまり1分1頁)と自分で把握していた。院生の頃、『谷崎潤一郎全集』を最初から読んでいくなかで自然に体得したペースではなかったろうか。 ところが東京に…

第62 待望の商店街歩き

東京に移り住む前はずっと東北に住んでいたうえ、旅行好きというわけでもないから、関西地方に旅する機会といえば修学旅行のような団体旅行ばかりで、わずか二度あっただけ。ところが東京に来てからは、仕事の関係上京都・奈良といった関西の古都に年数度出…

けた違いの掘出物!

ブックオフ戸越駅前店 ★出口裕弘『東京譚』(新潮社) カバー・帯、100円。澁澤龍彦がモデルの人物も登場する連作短篇集。ダブり。 最寄駅南口にある新古本屋 ★石子順『映画366日館』(現代教養文庫) カバー、300円。1月1日から12月31日まで、その日に関係…

仏教小説の官能

寺内大吉『はぐれ念仏』*1(学研M文庫)を読み終えた。 本書は学研M文庫今月の新刊である。しかしなぜ突然『はぐれ念仏』なのだろう。以前同文庫から、第28回直木賞受賞作である立野信之『叛乱』が出た(気になりつつ未購入)。本書は第44回(1960年下半期…

グロテスクへの感性

辻惟雄さんの『奇想の系譜 又兵衛―国芳』*1(ちくま学芸文庫)を読み終えた。名著の誉れ高いことは聞いていたので、文庫化されたとき(今年9月)にすぐ購い、積ん読の山の一番上に置いていつでも読める状態にしていた。そのときは先日見た千葉市美術館での岩…

またしても昼休みに

小春日和で気持ちがいいので、昼休み散歩。西片から本郷の路地裏を歩いて菊坂辺まで。菊坂の途中にリサイクルショップがあって、そこに少しだけ古本が置いてある。買取り品のなかにたまたま本もまじっていたという感じの扱いで、一冊100円。これまでたまに覗…

小窓から見る戦争の歴史

集英社新書今月の新刊3冊について、先に感想を書いた。今月は集英社新書だけでなく、新潮新書も負けていない。内藤陽介さんの『切手と戦争―もうひとつの昭和戦史』*1(新潮新書)も面白い。 内藤さんは「郵便学者」として、いまや朝日新聞文化欄でも活躍され…

私小説作家としての小林信彦

先月上旬、小林信彦さんの連作短篇集『袋小路の休日』が講談社文芸文庫に入るという情報を得たとき、正直「しまった」と思った。 それほど熱心な小林信彦読みではなかったので、私がこの本の存在を知ったのはこの本の中公文庫版*1と出会ったときである。一昨…

スポーツライティング宣言

集英社新書新刊の第三弾は、重松清さんの『スポーツを「読む」―記憶に残るノンフィクション文章讀本』*1(集英社新書)だ。いまや「大」をつけてもいいほどの重松ファンになってしまったが、小説作品以外のいわゆる「ノンフィクション」の著作は読んだことが…

「こち亀」再認識

集英社新書新刊の第二弾。秋本治さんの『両さんと歩く下町―『こち亀』の扉絵で綴る東京情景』*1(集英社新書)を読んだ。副題にあるように、本書のほとんどは、ページ見開きの左側が「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(以下「こち亀」と略)の扉絵(第1頁目…

堀切菖蒲園の古本屋

千葉市美術館の帰り、自転車で、お花茶屋から一つ先の駅堀切菖蒲園へ。川本三郎さんの『映画を見ればわかること』のカバー写真になっている青木書店に行ってみる。 「青木さん、また荒川放水路のことを教えてください」(文章不正確)という川本さんの色紙や…

岩佐又兵衛は吃又だった

「伝説の浮世絵開祖 岩佐又兵衛展」@千葉市美術館 山下裕二さんが朝日新聞に書いた記事を見て、この展覧会の存在を知った(正確に言えば再認識した)。そして最近文庫に入った辻惟雄さんの『奇想の系譜』*1(ちくま学芸文庫)を思い出した。同書冒頭の一章…

ブックオフと古書ほうろう

昨日開店したばかりのブックオフ千駄木店に立ち寄る。しかし収穫なし。そこから歩いて一、二分の古書ほうろうへ。 古書ほうろう ★辻まこと『多摩川探検隊』(小学館ライブラリー) カバー、450円。

網野史学誕生秘話

今月は集英社新書の新刊が面白い。まず第一弾。中沢新一さんの『僕の叔父さん 網野善彦』*1(集英社新書)を読み終えた。網野さんは中沢新一さんの父の妹と結婚している。中沢さんから見れば義理の叔父さんにあたるわけだ。宗教学者の甥による歴史学者の叔父…

山本周五郎礼賛

川本三郎さんの『映画を見ればわかること』(キネマ旬報社、→11/12条)中の一篇「山本周五郎のことなど」を読んでいたら、山本周五郎の小説を読みたくなった。川本さんはこのなかで、映画化された新旧の山本作品に触れ、そこから次々と連鎖的に話題をつなげ…

記憶の古層を掘り起こす

毎日時間に追われ、仕事や生活と無関係なことで頭を働かせる機会が減少するいっぽうである。……などとしみじみ考えることすら、滅多にない。 以前古書ほうろうで見かけ、あまり目にしない本だからと買っておいた(2003年6月、500円)安野光雅・三木卓『らんぷ…

興奮の一端

棚澤書店@東大正門前 ★角田喜久雄『東京埋蔵金考』(中公文庫) カバー、100円。安かったので、とりあえず。 ★吉田健一『怪奇な話』(中公文庫) カバー・帯、100円。これでこの本は3冊目。欲しいという方に差し上げます。 ★渡辺一夫『随筆 うらなり抄―おへ…

第61 小春日和の本郷興奮記

人形作家石塚公昭さんのサイト(こちら)で先日来、「D坂の殺人事件が似合う古書店」という面白いアンケートが行なわれている。来年刊行される初の作品集を江戸川乱歩をテーマに制作されるということで、アンケートで寄せられた古書店を舞台に、「D坂の殺人…

華族が気になる

華族が気になる。明治時代、江戸以来の大名諸侯、公家、維新の功臣らは公侯伯子男の爵位を授けられ、士族平民と区別され特権階級となった。それが華族である。 歴史好きになったはじめのころから、私にはこうした階級社会(階級組織)というものへの関心が衰…

ポルトレという方法論

書友ふじたさんが、辰野隆『ふらんす人』(講談社文芸文庫)・ 鈴木信太郎『記憶の蜃気楼』(同前)という東大仏文の教授二人の本を手に入れたことに触れ、「渡辺一夫とか中島健蔵とか、往年の東大仏文科・人物誌にここ一年ほど心惹かれている。これを機に追…

映画の情報整理学

川本三郎さんの新著『映画を見ればわかること』*1(キネマ旬報社)は、『キネマ旬報』連載のエッセイをまとめたものだから映画の話題が中心となっている。ただ私のようなバリバリの映画ファンではなく、でも川本ファンであるという人間にとって、本その他の…

庶民の怨念

「映画女優 高峰秀子(2)」@東京国立近代美術館フィルムセンター 「笛吹川」(1960年、松竹大船) 監督木下惠介/原作深沢七郎/美術伊藤熹朔・江崎孝坪/高峰秀子/田村高広/市川染五郎/中村萬之助/岩下志麻/川津祐介/田中晋二/渡辺文雄/加藤嘉/山…

戸板康二の女学校教師時代

戸板康二さんは戦中の一時期女学校の教師をしていたことがある。その頃の思い出はいくつかのエッセイに書かれているが、いまこれというものを示すことができない。当面、その時期前後の戸板さんを語るうえで必須の文献である回想録『回想の戦中戦後』(青蛙…

気散じ文学論

服用すると霧が晴れたようにすっきりと痛みがとれてしまう頭痛薬や胃薬にひとたび出会おうものなら、ちょっとの痛みでもその薬に頼りがちになる。それを繰り返しているうちに薬の鎮痛効果は薄れ、元の木阿弥に。軽度の薬物中毒、薬物依存症と言っていいかも…