2003-01-01から1年間の記事一覧

アンソロジーの愉悦

講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見15 笑いの源泉』*1(講談社文芸文庫)を読み終えた。このシリーズは第一期全10巻、第二期全8巻で現在も刊行中、いちおう継続購入している。第二期の最初に出た第11巻「事件の深層」を一時読み始めたが、何篇か読んで挫…

物語の衣装を取り払う

北上次郎さんの『うろたえる父、溺愛する母―19世紀小説に家族を読む』*1(筑摩書房)を読み終えた。本書は副題にもあるように、19世紀の海外の小説を読み、「困ったものだ」とつぶやきながら、そこに描かれたさまざまな家族像を抽出するという内容となってい…

病気至上主義あるいは一病息災の思想

急に身体の具合がおかしくなった。そういうとき、ネットで自分の症状と似た事例を探す。「そうそう、これこれ」。ピタリとあう症状を見つけて他人の体験談を読むと、同志を見つけた嬉しさで自分の苦しみが相対的に減じたように感じ、気が休まることがある。…

仙台にて

仙台では総じて東京で見ないような古本が多い。嬉しい収穫がたくさん。 愛子開成堂書店 ★獅子文六『コーヒーと恋愛(可否道)』(角川文庫) ダブり。モシキさんへのプレゼント。190円。 ★山本夏彦『恋に似たもの』(中公文庫)ISBN4122026873 文春文庫版既…

痛すぎて涙がとまらない

出張先で重松清さんの『流星ワゴン』*1(講談社)を読み終えた。こころの表面にある痛点をむき出しにされてそこをチクチクと刺されるような、読みながらずっとそんな疼痛をおぼえさせられる物語だった。 主人公は38歳。会社をリストラされたばかり。妻はテレ…

文章読本の読み方

「文章読本」といえば谷崎潤一郎・川端康成・三島由紀夫のそれをまず思い出す。これに一昨年読んだ丸谷才一さんの『文章読本』*1(中公文庫、感想は2001/8/30条)が加わる。谷崎のそれは読んだように記憶しているが、定かではない。川端・三島バージョンはも…

連作漬けの日々

これまでいく度となく繰り返し表白してきたが、私は「連作(短篇集)」好きである。単なる短篇の寄せ集めでなく、同一主人公・登場人物ではあるが作品ごとに独立して読めるような(しかし続けて読めば面白さは倍増する)短篇の集合体、統一的なテーマを縦軸…

縦のものを横にする

キーボードを前に文章を考えるようになって15年ほどになる。世の中の移り変わりに応じて目の前の機械がワープロ専用機からPCへ変わったとはいえ、基本的にキーボードを叩いて文章をひねりだすというスタイルに変化はない。ペンの運動が思考を生みだすという…

物語へむかって

書評集『本の音』*1(晶文社)以来一年八ヶ月ぶりの堀江敏幸さんの著書が、相次いで二冊も刊行された。長篇エッセイ『魔法の石板―ジョルジュ・ペロスの方へ』*2(青土社)と連作短篇集『雪沼とその周辺』*3(新潮社)である。 それまで続いていた堀江作品の…

「中井英夫没後十年『虚無への供物』」展@ミステリー文学資料館(池袋) 「活字文明開化―本木昌造が築いた近代」展@印刷博物館

古本大學@池袋 ★高見順『いやな感じ』(文春文庫)ISBN4167249022 このところ探していた本。嬉しい。800円。この古本大學は池袋に行ったときには必ず訪れるべきお店にしたい。 ブックオフ池袋要町店 ★辻真先『江戸川乱歩の大推理』(光文社文庫)ISBN433471…

西野幸彦年譜

西野幸彦は哀しくも幸せな男である。 彼は五十数年の人生を独身で過ごしたけれど、数多くの女性と関係をもった。自分で「女たらし」であることを自覚しており、女性のほうでは「するりと女の気分の中へすべりこんでくる種類の男性」である西野に魅了されてし…

東京を次代に遺すために

職場が本郷で、通勤に営団地下鉄千代田線を使って北東のほうから通っていることもあり、谷中・根津・千駄木のいわゆる“谷根千”地域は馴染みが深い。もとより仙台にいるときから森まゆみさんの本は買っていたから、森さんたちが作る地域雑誌『谷根千』の存在…

古本話+人情噺=古本噺

出久根達郎さんの文庫新刊『古本夜話』*1(ちくま文庫)を読み終えた。 出久根さんの本を読むのは久しぶりだ。『本のお口よごしですが』(講談社、のち講談社文庫)で講談社エッセイ賞を、『佃島ふたり書房』(同上)で直木賞を受賞された90年代の前半、いま…

古書ほうろう ★山本夏彦『無想庵物語』(文春文庫)ISBN4167352079 文春文庫に入っている山本夏彦さんの著作17冊のうち、これであと2冊(『笑わぬでもなし』『生きている人と死んだ人』)を残すのみとなりました。

続・書巻の気

丸谷才一さんの新刊エッセイ集『絵具屋の女房』*1(文藝春秋)を読み終えた。 丸谷さんのエッセイ集はどれも面白いから、読み始めると止まらず最後まで一気に読まされるものだったが、今回は他の本に目移りしたり、あれこれと気が散る事情があってずいぶん時…

大学堂書店@本郷三丁目 ★北森鴻『花の下にて春死なむ』(講談社文庫)ISBN4062733277 日本推理作家協会賞(短篇および連作短篇集部門)受賞作。「気の利いたビアバー「香菜里屋」のマスター・工藤が、謎と人生の悲哀を解き明かす」。200円。 ★開高健・吉行…

堀切菖蒲園「講談社書店」にて ★川端康成『文芸時評』(講談社文芸文庫) 新刊で買い漏らしていたもの。首尾よく入手。ISBN:4061983466 お花茶屋青木書店にて。 ★目黒考二『活字三昧』(角川文庫) たぶん買っていなかったはず。ISBN:4041974011 ★山本夏彦『…

散歩も古本も植草甚一も…

『植草甚一コラージュ日記1』*1(瀬戸俊一編、平凡社)を読み終えた。本書は『植草甚一スクラップ・ブック』全41巻(晶文社)の月報に連載された手書きの日記をそのまま二冊本として刊行するもので、今回読んだ第一巻は「東京編」として1976年の1月から7月…

歪曲され美化される記憶

三島由紀夫の長篇『美しい星』*1(新潮文庫)が改版されたのを機に買い求め、再読した。読むのは1990年の二月下旬に読んで以来13年ぶりだ。 ある日突然、UFOを目撃したことをきっかけに自分が宇宙人であると自覚し、地球救済を目的に立ち上がった埼玉県飯能…

嬉しい俳句写真文集

戦後の一時期砂町に住んだ俳人石田波郷に、同じ砂町にある疝気稲荷を詠んだ句がないものか、『江東歳時記』*1(講談社文芸文庫『江東歳時記/清瀬村(抄)』所収)を繙いたのは一、二週間前のことだった。結局目当ての疝気稲荷についての句は見つからなかっ…

巨人ファンの嘆き

日本プロ野球12球団のうち、読売巨人軍(以下巨人と略)のファンが占める割合は圧倒的なはずである。本当であれば仲間が大勢いるはずなのだから大手をふって歩けばいいものの、肩身の狭い思いをしながらせせこましく生きているのはなぜだろう。 いや、私にも…

「困ったものだ」という愛情表現

今年七月に目黒考二さんの『活字学級』*1(角川文庫、7/14条参照)を読んでからというもの、日頃の読書を通じて、中年になったわが身を省み、また家族に思いを馳せるという目黒考二=北上次郎さん(これは『記憶の放物線』*2本の雑誌社、9/19条)のスタンス…

書棚を行きつ戻りつ

川本三郎さんの『東京の空の下、今日も町歩き』*1(講談社)はそれにしてもいい本である。たぶんこれから何度も読み返すことになるだろう。またときには川本さんのあとをたどって町歩きに出かけることになるかもしれない。 本書を読んで初めて知ったのは、川…

10万ヒット記念オフ会開催案

あと2000ヒット強で、拙サイトのトップページに設置しているカウンタの数字が100000になる。ホームページを開設したのが99年1月。カウンタも同時に置いたはずだから、約五年かかって六桁の数字に到達するということになる。 ホームページ開設当初はカウンタ…

東京でおぼえた愉しみ

何度も繰り返して言うが、東京に移り住んで五年半が過ぎた。極端な言い方だけれども、自分にとって東京に来たことが果たして良かったのか悪かったのか、毎日のように考えている。 とはいえ結論は出にくい問題だろう。局面ごとにプラス・マイナスがあるだろう…

評伝の読み方

いい評論・評伝というものは、何度読んでも面白く、また読むほうの時々の関心によって受ける印象も多様であるものだと思う。なぜこんなことを考えたかというと、矢野誠一さんの『戸板康二の歳月』*1(文藝春秋)を読んだからなのだった。 本書は私が戸板康二…

本読みの男女差

どんなきっかけである作家(とその作品)を好きになるものか、ひょんなことから読みはじめて一気にはまってしまう例もあるから面白い。 そのきっかけがなければ、もしかしたらまったく読まないままだったろうと考えると、本読みのきっかけというものは「人生…

本読みの嘆き

目黒考二さんの『笹塚日記 親子丼篇』*1(本の雑誌社)を読み終えた。 前著『笹塚日記』(同上、旧読前読後2002/4/7、4/8条参照)が1999年1月から2000年5月までであったのにつづいて、本書では2000年6月から2002年5月までの二年分の日記が収められている。 …

清張に夢中

このところ時折思い出したように松本清張の作品を読むようになった。そしてその都度感服している(旧読前読後2000/7/25、2001/2/18、2002/11/29、12/29、2003/2/9各条)。川本三郎さんの影響が大きいに違いないが、たぶんそれだけではない。清張作品にある負…