書棚を行きつ戻りつ

東京の空の下、今日も町歩き

川本三郎さんの『東京の空の下、今日も町歩き』*1講談社)はそれにしてもいい本である。たぶんこれから何度も読み返すことになるだろう。またときには川本さんのあとをたどって町歩きに出かけることになるかもしれない。
本書を読んで初めて知ったのは、川本さんが「散歩」と「町歩き」を明確に区別しているということ。「あとがき」にはこうある。

「散歩」は自分の家の近くを歩くこと。「町歩き」は日常の生活圏とは違う町を歩く。ちょっとした旅のようで楽しい。
これから私も川本さんにならって「散歩」と「町歩き」を使い分けることにしよう。
この「あとがき」ではまた、以前同じ『東京人』で連載した町歩きに触れ、そのときは隅田川沿いの下町に行くことが多かったので、今回はそれと重ならないようにあまり語られることのない周縁の町を中心に歩いたとある。
本書で取り上げられているのは青梅・八王子・あきる野東大和羽村福生といった多摩の町や、板橋・練馬・赤羽・砂町・亀戸・金町・亀有・町屋・押上・曳舟といった昔の「近所田舎」の町が多い。
以前の連載とは『私の東京町歩き』ちくま文庫)のことである。あわてて書棚の川本三郎文庫本コーナーから同書を抜き取り、目次を見返してみた。蒲田・阿佐谷・板橋・赤羽のように新著と重複する町もあるが、こちらのほうが確かにより中心部の下町に偏している感じだ。
奥付を見ると1998年3月24日となっている。私はこの年の4月に東京に来た。はて仙台で買ったものか、東京に来てから買ったものか。『私の東京町歩き』の内容が強く記憶に残っていないところを見ると、いずれにしてもいまのように川本さんの町歩き的感性を受け入れる状況ではなかったようだ。
『東京の空の下、今日も町歩き』では、久住昌之谷口ジロー孤独のグルメ(扶桑社文庫)に何度も触れられている。たとえば赤羽の早朝からやっている居酒屋がそう。この店はたしか短篇集『青いお皿の特別料理』(NHK出版)中の冒頭の一篇「飛行機が欠航になって」で、乗る予定の飛行機が欠航になった中年夫婦が空いた時間をつぶすために立ち寄った店としても登場したはずだ。
何度も書棚を行きつ戻りつ、机の上にはまたたくまに数冊の本が積み上がったのだった。