ひろいよみロッパ日記(4)

三月八日(水曜)晴曇
(前略)成城、小野田の二階、又こゝに当分暮すのか。何よりいやなのは此処の洗面所、腰かゞめてゐる間のいやさ。春既に来りしか、ひどく暖かし。朝食は、海苔と卵と味噌汁だけなのはひどい。(後略)
三月九日(木曜)晴
「アパートの哲学者」始まる。
小野田第二朝。九時近く迄、それこそ馬鹿のやうに眠った、マキノ地獄の疲労か。今日は、四時から「アパート」のプレスコの予定。経堂よりバスで渋谷。(中略)四時、此の組は大丈夫、ちゃんと、プレスコ始めてゐる。月丘夢路と二人、こっちが、クラシックで歌ふ。同じ歌を月丘が、ジャズにして歌ふ。歌は、ドボルザック「新世界より」といふもの。ピアノで一寸習ふとすぐ覚えられ、二三回テストで本版OK。今日はこれでアガリ、六時近くなり。(後略)
プレスコという言葉ははじめて聞いたのだが、調べてみるとアフレコと反対の意味で、映像の前にあらかじめ歌や台詞を録音することらしい。