大阪生まれの江戸っ子part2

「銀座っ子物語」(1961年、大映
監督井上梅次/脚本井上梅次笠原良三/二世中村鴈治郎川崎敬三川口浩/本郷功二郎/三益愛子若尾文子野添ひとみ森川信江波杏子/角梨枝子/清川玉枝/安部徹/十朱久雄

一昨年の年末に観た「東京おにぎり娘」(1959年、→2005/12/29条)と同じ系統。要は中村鴈治郎を「大阪生まれの江戸っ子」に仕立てるシリーズである。
銀座の真ん中に呉服店を構える主人が鴈治郎で、なぜかコテコテの関西弁を喋るという変な存在。でも今回はちゃんとそのあたりの矛盾がいちおう説明されていて、鴈治郎は大阪から銀座に乗り込んで呉服店を開いたという出自が明らかにされている。でもかたくなに関西弁しか喋らない理由はわからない。
店は奥さんの三益愛子と番頭さんの森川信に任せて、半ば隠居の身分で、朝風呂が大好き。朝風呂仲間の十朱久雄から、銀座にももうこんな粋な人はいないと言われるくらい、江戸っ子気質が身についている。
そのやんちゃな三人息子と鴈治郎が繰り広げる喜劇。長男川崎敬三、次男川口浩、三男本郷功次郎。三人ともスポーツマンで、朝から元気に町をランニングし、唄いながらシャワーを浴びる。のんびりと寝ていられない鴈治郎が歌の間に入れる合いの手のようなぼやきが関西人のノリで笑える。井上梅次監督はこのように歌を映画に入れるのが本当に好きなのだなあ。
川崎敬三はスポーツ協会の主事で、数年後に迫った東京オリンピックの準備に忙しい。元アマチュアレスリングの選手。川口浩洋服店東洋紡)の店員で、現役アメフト選手。本郷功次郎は大学生でアマチュア・ボクシング選手。
三人が三人とも、ホテル社長の令嬢で秘書もしている若尾文子に一目惚れし、恋の鞘当てを演じるというのが筋のひとつ。母三益愛子は、家に住まわせて家事を手伝ってもらっている三人息子の従妹野添ひとみを息子の誰かと結婚させたいと、野添の母親で自分の姉にあたる清川玉枝と画策している。
三益愛子という女優さんは、まあ川口浩のお母さんであるわけだが、鴈治郎ののんびりとした道楽旦那と対照的にきりっと冷たい雰囲気だ。寄れば切るという冷たさで、母親としての暖かみが薄く、本当に「母物」で有名な母親女優なのだろうかと訝ってしまう。
ハンサムな三人兄弟と若尾文子の恋が売りなのだろうが、やはりこの映画は鼻の下を伸ばしっきりのスケベ親父鴈治郎の道楽遊びに尽きる。小唄を習いにお師匠さんの家に行き、一緒に習っている芸者さんたちに囲まれて鼻の下を伸ばす。
小唄を習い終えたとき、座っていた座布団を裏返して座を外すさりげなさが絶妙。またバーのマダム角梨枝子にぞっこん惚れて、川口浩に弱味を握られてしまう。バーでにやけながら角梨枝子とチークを踊るおどけぶりに大笑い。
二代目鴈治郎を主演として作られた映画は、こうしたプログラム・ピクチャーに近い作品だけでなく、小津安二郎の「小早川家の秋」にしろ、鴈治郎さんの味をうまく活かした作品が多いなあと感心する。