まなざしに込めた意思の強さ

昭和の銀幕に輝くヒロイン第36弾野添ひ

「親不孝通り」(1958年、大映
監督増村保造/原作川口松太郎/脚本須崎勝弥川口浩野添ひとみ桂木洋子船越英二/潮万太郎/市川和子/小林勝彦/三角八郎

この映画もなかなか良かった。さすが増村保造監督、と言うべきか。
大学卒業を間近にひかえながら、なかなか就職口がなく半分ふてくされ気味の不良学生川口浩は、洋裁店を経営している姉桂木洋子とアパートで二人暮し。このアパートの建物はちょっと気になる共同住宅建築だった。門に「麹町区竹長…」とあったように思う。
ついでながら、川口が通う大学は内田ゴシック的建物だったので、東大かと思い帰宅後調べてみると、東大は東大でも白金台にある医科学研究所であることが判明。この本館は以前観た「月に飛ぶ雁」でも、若尾文子・安西郷子の通う女子大に使われていた(→3/13条)。
川口はボーリングの学生チャンピオンという設定。たしか川口のボーリングはプロはだしではなかったか。でも冒頭、川口らが入りびたっている飲み屋のおやじ(潮万太郎)の自転車に車でぶつかった外国人二人をいいカモとばかり、賭けボーリングをする。学生選手がいいのだろうか。ともかくこのボーリング対戦をタイトルロールとして見せるあたりもいい。
川口の姉桂木洋子は証券会社のエリート船越英二と付き合っていたが*1、妊娠を告げると船越は堕ろせと冷たく命じ、結婚するつもりはないと言い放つ。桂木は愛想を尽かして自分から船越に別れを告げるのだが、姉を慕い彼女の幸せを願っていた弟は憤慨、船越の会社に乗り込むものの、けんもほろろに追い返される。
そこで川口は、船越の妹である野添ひとみに近づき、復讐のため、姉が受けた仕打ちを野添で繰り返そうとする。…
川口が野添に暴行しようとするシーン、夜、川口が野添の手を強く引きながら、背丈以上に高いススキの野原を疾走する場面が詩的なほど美しく、躍動感にあふれる。あとでこのシーンが、攻守逆転して再現されるあたり考え抜かれている。
前々から感じていたのだが、野添ひとみの顔立ちはわたし好みだ。「君の名は」「婚期」を思い出す。今回この作品を観て、「野添好み」を再確認する。とにかく可愛い。くりくりした大きな瞳は、この映画のなかで川口浩を愛し抜こうとする意思の強さを表現する。桂木洋子のまなざしも同様だ。女は強い。
かくして船越英二川口浩も、野添ひとみ桂木洋子のまなざしに呪縛され、年貢を納めざるをえなくなるのだった。
【追記】わたしは、川口浩と言えば、やらせすれすれの演出で話題だった水曜スペシャル(いわゆる「川口探検隊」)でしか知らない世代だ。しかも郷里山形ではそれらが放映されたテレビ朝日のキー局はなかったから、「探検隊」を常に見ていたとは言いがたい。世間の噂先行、パロディによってかろうじて知っていたに過ぎない。
その川口が、この映画のように、ハスキーな声とハンサムな顔立ちで、若者のやり場のない閉塞感を体現する雰囲気を発散させる俳優だったとは、つゆ知らなかったのである。したがって野添ひとみも、そんな「探検隊の川口浩」を困ったわこの人という感じで支えている元女優の奥さんとしてしか知らない。こんなにキュートで、でも芯の強さを持った素敵な女優さんだったのだ。

*1:桂木さんも船越さんも今年お亡くなりになった。合掌。