ダイスの立て方

「南國土佐を後にして」(1959年、日活)
監督・脚本斎藤武市/原作・脚本川内康範/小林旭浅丘ルリ子南田洋子中原早苗/二本柳寛/西村晃金子信雄ペギー葉山内田良平/高野由美

渡辺武信『日活アクションの華麗な世界』*1(未來社)によれば、この「南國土佐を後にして」は日活の「典型的な無国籍アクションの全盛期」の幕開けを告げる記念碑的位置づけを与えられている。
「予期せぬほどの興行成績を収め」小林旭のスターとしての地位を確立したこの作品、彼の大ヒットシリーズ「渡り鳥」「流れ者」の原型となっているという。渡辺さんはかなりの紙数を割いて、これらシリーズと本作品の似ている点や相違点を分析している。
南国土佐を後にして [DVD]刑務所を出所したチンピラの小林旭が、親分の二本柳寛や兄貴分の西村晃の説得をふりきって堅気になることを決意し、実家のある高知に戻ってくる。しかし前科歴が災いして就職口は見つからず、恋人の浅丘ルリ子は地元のヤクザ内田良平に奪われかかっている。
窮した小林は東京に戻り再起をはかろうとするものの、彼を愛する同郷の中原早苗や、二本柳・西村コンビの妨害でこれまたうまくゆかない。東京に逃げてきた浅丘を追いかけ内田らもやってきて、100万出せば浅丘を返すというので、一度だけという約束でダイスを握って賭場に戻る小林。
ヒット作品とは言いながら、わたしにとってはいまひとつ面白味に欠ける。浅丘ルリ子もひたすら待つ女に徹して目立たず、展開にもカタルシスがない。
唯一の見せ場は金子信雄と対決するダイス賭博の場面か。その直前、賭場に出ることを決意した小林旭西村晃からダイスを渡され、容器(あれは何と呼べばいいのか)のなかでシャシャッと振ってテーブルに伏せ、空けてみるとダイスが一直線に立っている。
小学生の頃わたしもこれが得意だったことを思い出した。もとより容器はプラスチックのコップなので、プラスチック製の小さなダイスでは小さいし反撥してうまく立たない。木製で少し大きめのダイスをテーブルに等間隔で一直線に並べ、それを一つずつシャカシャカとコップのなかに入れていって、最後にピタリと止め、コップを空ければ、見事木製ダイスは立っている。
この芸当は友人から教わったはずで、やがて自分の得意技となり、何か教室で得意芸を披露する会で余興として披露した記憶がある。
いま考えてみれば、ああしたダイス立ての芸当は、この作品にあるような小林旭の映画が源流となっていたのか。映画の中味よりも、呼び覚まされた昔の記憶に心が傾いてしまった。