千恵蔵金田一大活躍

「獄門島(総集篇)」(1949年、東横映画京都)
監督松田定次/原作横溝正史片岡千恵蔵/喜多川千鶴/三宅邦子/小杉勇/大友柳太朗/齋藤達雄/進藤英太郎/沢村國太郎/千石規子

1970年代の子供(生まれは67年)の私にとって、金田一耕助石坂浩二である。当時山形にTBS系のテレビ局がなかったため、古谷一行金田一はリアルタイムで知らない。ただ、石坂金田一にしろ古谷金田一にしろ、原作に近いモジャモジャ頭で風采があがらない風貌であり、これは譲れない。
「獄門島」が発表されたのは昭和22年で、復員兵の帰還や供出物の返還など、敗戦直後の世相を色濃く反映していた。1977年に公開された角川映画市川崑監督の「獄門島」はそのあたりを忠実に再現していたように思う。犯人・トリックも、十分とは言えないものの、かなり忠実だった。
ところが、原作発表のわずか2年後に制作された「獄門島」は、金田一耕助片岡千恵蔵を配した。ダブルのスーツに身を包んだお洒落な探偵になっている。当時における「現代劇」としての「獄門島」は、敗戦直後の現実を忠実に映像化することを忌避し、逆に浮世離れしたヒーロー指向を選択したのかもしれない。
その後横溝正史ブームが到来し金田一耕助という探偵の存在が市民権を得た70年代においては、もはや千恵蔵的金田一を造型することは不可能となってしまった。
物語の人物配置は基本的に原作と変わらない。苦悩するヒロイン鬼頭早苗に三宅邦子(市川版は大原麗子)。病死する本鬼頭の当主嘉右衛門(市川版は東野英治郎)は千恵蔵の二役。磯川警部に大友柳太朗(喋りが早口、三島由紀夫のような顔立ち)。和尚に齋藤達雄(市川版は佐分利信)。狂気の三姉妹のうちの一人が千石規子なのだから、おばあさんとしての彼女しか知らない私にとって、時代を感じないわけにはいかない*1
ストーリーははなはだしく「原作離れ」をしていた。この物語がミステリとして一級品であることを示す肝心の「見立て殺人」がまったく捨象されているのに驚いた。これがなければ「獄門島」ではないではないか。
とがっかりしながら見ていると、原作にないどんでん返しがあって、二度びっくり。これはこれでひとつのミステリ映画として成り立っている。少し見直した。片岡千恵蔵一人のためにある映画のようでもある。
この映画では、「獄門島」を「ごくもんじま」と呼び、島内で勢力を二分する「本鬼頭」「分鬼頭」のうち、「分鬼頭」を「ぶんきとう」と呼んでいた。市川作品では「ごくもんとう」であり、「わけきとう」である。物故者は監督の松田定次

*1:といっても市川版は浅野ゆう子なのだから、これもある意味時代を感じる。