20年後の岸恵子は…

  • BSフジ
悪魔の手毬唄」(1977年、東宝
監督市川崑/原作横溝正史石坂浩二岸恵子若山富三郎加藤武中村伸郎辰巳柳太郎草笛光子渡辺美佐子白石加代子仁科明子永島暎子高橋洋子北公次山岡久乃原ひさ子三木のり平常田富士男小林昭二岡本信人辻萬長

この「悪魔の手毬唄」は、いわゆる“金田一(横溝)映画”のなかでも、最も繰り返し観ているはずだ。今回が四、五度目になろうかと思う。
ただこれまでは横溝正史(=探偵小説)への関心から観るという意味合いが強かったが、今回はそれとはまた違った角度(出演俳優陣への関心)から観ることになったため、かなり新鮮に感じることができた。
映画の冒頭、金田一に恋文の代筆を依頼する、事件の鍵を握る薄気味悪い老人多々良放庵が中村伸郎だ。温泉につかって皺くちゃの顔でカメラのほうに振り向く構図が、劇中の金田一同様、ぞっとさせられる。中村伸郎は最初のほうだけであわれ毒殺され、ラスト近くになって骸骨と抱き合ったかっこうの遺体が土の中から発見される。これまでこの役柄が中村伸郎であることをまったく意識したことがなかった。
草笛光子渡辺美佐子白石加代子の脇役女優陣もそれぞれ存在感が強烈だし、先日亡くなった原ひさ子も、殺人事件が起こると村に伝わる手毬唄を聞かせようとする老婆として強い印象を残す。探偵金田一を終始侮蔑し、早合点癖があって愛すべき加藤武の立花警部も欠かせないキャラクターであり、大滝秀治のとぼけた医者も「犬神家の一族」における神官に通じる。
はからずも前日、若かりし頃の岸恵子が出演した「あなた買います」を観たばかりで、この「悪魔の手毬唄」を観ることになろうとは思いもよらなかった。岸恵子市川崑監督と言えば、DVDに録画したまま未見の「おとうと」を思い浮かべる。この映画の演出は、市川崑監督の女優岸恵子に対する愛情があふれたものだった。
謎解きとロマンが、それぞれの魅力を損なうことなく高いレベルで見事に融合しており、とりわけ若山富三郎の磯川警部が岸恵子に寄せるひそやかな恋慕の気配が素晴らしい。「犬神家の一族」「獄門島」を上回る金田一映画の傑作と言うべきかもしれない。
岡山の鄙びた田舎の雰囲気といい、現在作られる金田一作品にはもはや決して表現不可能と思われるような日本の「原風景」が、市川崑金田一映画のなかに封じ込められているのではあるまいか。あの物悲しくうら寂しい映像とBGMが、不思議な郷愁を呼び起こす。
たぶん原作どおりなのだと思うのだが、この映画では活弁の弁士が重要な役割を果たす。岸恵子の過去は旅回りの女義太夫語りであるし、横溝正史はこうした大衆芸能をうまく作品に取り込んでいるものだと感心する。
次の日、藤原竜也石坂浩二が犯人役だった(どんでん返しがあってけっこう面白かった)「古畑任三郎ファイナル」を観ていて、その前日に同じフジテレビが「悪魔の手毬唄」を放映したのは、この古畑と関係があるのではないか、「石坂浩二に捧ぐ」という意味合いがあったのではないかと邪推してしまった。
事件が起こるのは「鬼首村」ならぬ「鬼切村」だし、同じようなわらべ歌(古畑のなかで老婆の吉田日出子が唄う「アヘアヘ」というわらべ歌には笑ってしまったが)どおりに殺人が起こったりする。もっと細部にも石坂金田一映画への敬意が込められていたのかもしれないが、そのほかは気づくことができなかった。
「あなた買います」から「悪魔の手毬唄」の間が約20年、「悪魔の手毬唄」から30年近くが経とうとしている今、岸恵子はパリ案内の正月特番に出演していた。