渋谷実作品の笠智衆ふたたび

  • 懐かし映画劇場@BS2(録画DVD)
「好人好日」(1961年、松竹)
監督渋谷実/原作中野実/脚本松山善三渋谷実笠智衆淡島千景岩下志麻川津祐介乙羽信子北林谷栄三木のり平

奈良に住む大学教授の笠智衆は数学の世界的権威なのだが、それ以外のことには頓着しない人間で、周囲では奇人で通っている。家もボロ家で、垣根も壊れている。妻が淡島千景、娘が岩下志麻。笠のモデルは岡潔がモデルだったように記憶している。先日読んだ藤本義一さんの『サイカクがやって来た』のなかに、藤本さんも岡潔をモデルにしたテレビドラマの脚本を書いたとあった。この映画とどのように違うのだろう。
その笠智衆文化勲章授賞が決まって持ち上がる騒動。親授式に出席のため上京した笠・淡島夫妻は、学生時代に笠が寄宿していたおんぼろ下宿に宿泊する。そこに泥棒の三木のり平がやってきて、せっかくもらった文化勲章を盗んでしまう。このあたりのシークエンスが笑える。
先日観た同じ渋谷実監督の「二人だけの砦」における笠智衆にも笑いを誘われたが、この「好人好日」もなかなかのもの。いま思い返せば渋谷作品独特のゆるさがあって、よく集中して観ることができたと自分に感心する。
岩下志麻の恋人川津祐介は奈良の老舗の墨屋の跡取りで、姉が乙羽信子、祖母が北林谷栄北林谷栄はこのような格式のある名家の老婆役を演じるにしても、お手伝いの婆や役を演じるにしても、下卑た感じがにじみ出てそこが面白い。同じ老婆役でも上品な印象の原ひさ子さんとは正反対の印象である。