映画化が難しい傑作

「本陣殺人事件」(1975年、たかばやしよういちプロ・映像京都・ATG)
監督・脚本高林陽一/原作横溝正史中尾彬田村高廣/新田章/高沢順子/水原ゆう紀/村松英子/東龍子/常田冨士男/加賀邦男/東野英心

中尾彬金田一耕助に扮した珍しい作品。「犬神家の一族」を皮切りに76年から封切られる市川崑監督・石坂金田一のシリーズに一年早く製作されている。戦後の日本推理小説界の幕開けとなった記念碑的作品である「本陣殺人事件」の映画化としては、1947年の「三本指の男」(金田一片岡千恵蔵)以来二作目のようだ。
ネタバレになるので説明が難しいが、トリックといい、「真犯人」といい、映画にしにくい原作のような気がする。いずれも地味(いちおうこう表現しておく)でドラマ性に欠けるからだ。「犬神家」以降のいわゆる“横溝映画”に顕著な、因習にがんじがらめになった土俗性が濃厚でもないので、平板になりかねない。
この映画はそこの点をうまくクリアしていたような気がする。原作はしばらく読んでいないけれど、原作(とくにトリック)を忠実に映像化したこの映画を観て、あらためて読み直してみたいという気持ちにさせられたのである。本陣殺人事件 [DVD]