スペクタクルとハートウォーミング

日本沈没」(1973年、東宝
監督森谷司郎/原作小松左京/脚本橋本忍小林桂樹藤岡弘いしだあゆみ丹波哲郎島田正吾二谷英明中丸忠雄村井国夫中村伸郎夏八木勲/角ゆり子/滝田裕介/神山繁

いま巷ではリメイク版公開が話題になっているが、まずはオリジナル版を観る。たぶん子供の頃観たことがあるのかもしれないけれど(映画館でなくテレビで)、まったく記憶にない。「日本沈没」というタイトルでおおよその内容が察せられるから、勝手にタイトルだけで妄想をふくらませているだけなのかもしれない。
妻はわたしより記憶がはっきりしており、テレビで観たように記憶しているとのこと。彼女は岩手県育ちだが、地殻変動に見舞われて日本列島が海に飲み込まれたり断裂したあとの映像を見ると、本州から岩手県部分だけパックリと割れ、離ればなれになってしまっている。岩手県人はさぞ恐ろしい思いをしたのだろう。
冒頭藤岡弘が操縦する潜行艇「わだつみ」で日本海溝の底にもぐった小林桂樹らが異変を発見する場面、ちょうど半分ほどのところで東京を大地震が襲う場面、ラストから数十分前の富士山大爆発をはじめとする大災害襲来の場面などなど、時間的にうまい部分部分にこうしたスペクタクルが配され、観るものをぐぐっと引っぱる。
日本沈没の危機が迫り、一億二千万国民を世界中のどこに避難させるかで政府が奔走する場面、最初は半信半疑だった外国も被害が大きくなるにつれ本腰を入れ、アメリカが軍を派遣したり、中国(首脳の一人が毛沢東そっくり)が輸送船派遣を約束したりする場面など、なかなかリアルである。
首相丹波哲郎が影の実力者渡老人(島田正吾)に対策を相談に行く。島田は学者たちに避難案を考えさせるが、最後の選択肢として、「何もしない(どこにも避難せず、日本民族は列島とともに滅びる)」と重く述べるあたり、鳥肌が立つ。
あれから30年、科学が進歩し、地震予知技術などもある程度まで可能になっているだろう。また国家の危機管理もいくばくかは進んでいるはずだ。そんな現代、「日本沈没」という事態に直面したとき、政府は、日本人はどんな対応をとるのか。映画ではどんな方法を描いているのか、リメイク版に興味がわく。でもたぶん、大音響大スペクタクルのリメイク版を映画館で観る度胸はない。
映画の筋とは別に、藤岡弘の部屋にすでに留守番電話装置が設置されていたことに驚く。プッシュホンという電話もすでに懐かしいアイテムになりつつあるが、その電話が平台のようなものの上に置かれていて、平台が留守番電話装置になっているらしい。
日本沈没 [DVD]

「夫婦百景」(1958年、日活)
監督井上梅次/原作獅子文六/脚本斎藤良輔月丘夢路大坂志郎浅丘ルリ子岡田真澄/山根寿子/青山恭二/森川信長門裕之/丘野美子/二本柳寛/初井言栄/安部徹/楠田薫/柳沢真一/フランキー堺(解説)

郊外の一軒家に住む大坂志郎月丘夢路夫婦が主人公。月丘は婦人雑誌の敏腕編集長、大坂は「売れない童話作家」という組み合わせで、月丘は家事一般が苦手なため大坂が家にいて家事をこなすという逆転夫婦である。その家に姪の浅丘ルリ子(すごく可愛い!)と岡田真澄の夫婦が下宿を追い出され、押しかけてくる。二人はともに学生同士で、下宿代などを浮かせるために結婚に踏み切ったのである。
中心はこの二組の夫婦だが、そこに月丘の従姉妹で、電器店を営む夫(森川信)と別れ、勤め人の青山恭二と半ば駆け落ちのように東京に出てきた山根寿子のカップル、大坂が勝手に浅丘・岡田夫婦に空き部屋を提供してしまったため夫婦喧嘩になり、家を出た月丘が身を寄せる鵠沼の姉夫婦(二本柳寛・初井言栄)、姉夫婦の隣に住む歯医者夫婦(安部徹・楠田薫)、下宿代を稼ぐため夜警のバイトに出た岡田の同僚長門裕之と丘野美子の夫婦という四組の夫婦模様が織り交ぜられている。
月丘の姉夫婦は、病気がちな子供のため、通勤時間が三倍もかかる鵠沼に引っ越してきた子供本位家族で、隣の歯医者夫妻は、麻雀をやるため家政婦に子供を寝かしつけさせるという夫婦本位家族という対照的な二組。長門夫婦は18歳同士で「できちゃった婚」、生活のため東京に出て、もうすぐ生まれてくる子供のために長門は一生懸命働いている見上げた人物なのである。
モダンで飄々としたたたずまいの大坂志郎と、これまたモダンで美貌の月丘夢路という取り合わせが絶妙で、癇癪持ちの月丘が腹を立てたときに、前髪を指にくるくると巻き付けながら、下唇をとがらせてフーッと息を前髪に吹きかける癖が実にチャーミングで印象的だった。この時期の浅丘ルリ子は本当にコケティッシュで可愛いし、長身でハンサムでありながら二枚目半の役柄がぴったりはまる岡田真澄も生き生きとして、二人の台詞のやりとりはスピーディで気持ちがいい。どの夫婦も収まるべきところに収まってハッピーエンドに終り、「ああ、いい映画を観た」という満足感に包まれて帰途についた。獅子文六原作映画のなかでも上々吉の部類に入る佳品である。