宇野重吉の決断

風速40米」(1958年、日活)
監督蔵原惟繕/原作・脚本松浦健郎/石原裕次郎北原三枝宇野重吉川地民夫渡辺美佐子金子信雄山岡久乃/小高雄二

紅の翼」の緊張感のあと観ると、ちょっと散漫な感じで見劣りしてしまう。同じ蔵原監督の「俺は待ってるぜ」に比べてもいまひとつ。
石原裕次郎は北大工学部建築科の学生。父宇野重吉は二流工務店の現場責任者格で、現在高層ビル建設中。宇野は息子を自分の会社にではなく、ライバルの一流建設会社に入れようとする。その社長が金子信雄
実は宇野は定年まで一年に迫り、それまでの現場責任者としての働きを会社が正当に評価してくれないことに不満で、裏で金子と密約を結び、ビルの竣工をわざと遅らせようとする。完成を遅らせることで会社の評判を落とし、株価が下がったところで株を買い占め、会社を乗っ取ろうというのが金子の野望なのである。宇野は重役での移籍と息子の就職を見返りに金子の計画に乗ってしまう。しかし、宇野重吉という役者のニンから想像できるように、この“裏切り”は積極的なものでなく、生活のためやむを得ずという色が濃い。宇野の顔に苦悩が浮かぶ。
しかしそれにしても…とわたしは思う。宇野の家は田園調布にあって、二階には立派なテラスがあり、純洋風の立派なこしらえなのである。いまの立場でそういうところに立派な邸宅をもってハイソな暮らしをしているのに、それでも不満なのだろうか、と。
しかも宇野は定年間際という年齢にもかかわらず、山岡久乃と再婚する。自分の息子が石原で、山岡の連れ子が女子大生の北原三枝なのである。この映画で二人は血のつながらない兄妹ということになる。冒頭お互いまだ兄妹であることを知らない二人が、登山途中の山小屋で出会う。すでにこのあたりから二人の間には濃厚な恋愛感情がたちこめ、しかし兄妹となれば、近親相姦的で隠微な雰囲気をふりはらうことができない。あるいはこのあたりは意図的なのか。
映画のクライマックスは、宇野が金子につくのをやめ、工期中完成を目指すことに方針を転換したあと、工事を邪魔すべく金子から送られた集団と、石原および弟分の川地民夫が嵐のなかを大乱闘するシーンだろう。さすがにこのアクションシーンは息を呑む。
小綺麗になってモニュメント風に残されたいまの田園調布の駅舎がまだ現役時代で、風雨に汚れた感じになっているあたり、「銀幕の東京」的視点では注目される。川地民夫の姉で金子信雄の愛人であるパリ帰りのシャンソン歌手渡辺美佐子が色っぽくて綺麗。
風速40米 [DVD]