キャンパス・メンバーズという恩恵

いつだったか、職場のあるキャンパスを歩いていたとき、学内掲示板に貼られてあった一枚のポスターにふと目がとまった。勤務校が「国立美術館キャンパス・メンバーズ」*1というものに加盟しており、所属学生・教員は、東京国立近代美術館(本館・工芸館、フィルムセンター展示室を含む)・京都国立近代美術館国立西洋美術館国立国際美術館国立新美術館の常設展を基本的に無料で観覧でき、また企画展は団体料金で観られるというのである*2
個人的には、このなかに竹橋の東京国立近代美術館が入っていたことに感激した。いままでお金(といっても420円だが)を払って観ていた、大好きなあの常設展をタダで観ることができるとは。給料が上がらないぶん、こういうところできちっと元を取らねばなるまい。
去年近代美術館で「靉光展」を観たとき、上記の諸館について、最初の入館月から一年間有効の年間パスポート「MOMATパスポート観覧券」というものを購った(→2007/4/27条)。そのときは、常設展の展示替えのたび訪れるだろうから、十分元を取れると踏んだのである。
ところが、結局「靉光展」以降昨年近代美術館を訪れることはできなかった。入館もしていないのだからパスポートそのものは無使用であり、これから使うことが可能である。その点損はしていない。でも、キャンパス・メンバーズで鑑賞できることを知ったとあれば、もうそれは必要ないのである。近代美術館好きの方にお譲りするとしよう。
キャンパス・メンバーズ制度を知って以来、竹橋を訪れる機会をうかがっていたが、ようやくこの連休最終日に時間を見つけた。「靉光展」以来約9ヶ月ぶりとなる。
今回の所蔵作品展(常設展)中印象に残った作品。菱田春草「賢首菩薩」(なぜか惹かれるものがあった)、関根正二三星」、速水御舟「門(名主の家)」、長谷川利行「新宿風景」、小茂田青樹「虫魚画巻」、藤田嗣治サイパン島同胞臣節を全うす」。
夭折の画家関根正二が、作者自身と姉、そして恋い慕う女性の三人の並ぶ姿を描いた「三星」に胸が熱くなる。長谷川利行の白っぽい「新宿風景」が、真っ白な壁に掛けられている情景を遠目で眺め、自分の家に彼の絵が掛けられている図を夢想する。お金があったら、長谷川利行の絵が似合う家に住みたい、初めてそんなことを思った。
アメリカ美術と国吉康雄 ~開拓者の軌跡 (NHKブックス)今回の期間、二階展示室では、国吉康雄の特集展示があり、これも常設展入場料で観ることができる。2004年の回顧展をきっかけに国吉作品を寄託する所蔵者があり、新たに収蔵されたそれら寄託作品に加え、近代美術館の所蔵作品と一緒に展示するというミニ企画。
約4年前の回顧展はいまでも憶えている(→2004/4/23条)。国吉康雄という画家の名前はこのとき初めて知ったのだった。明治の頃、17歳で単身アメリカに渡って苦学し、やがてアメリカを代表する画家となったという人。
この時期、フランスのようなヨーロッパでなくアメリカというのが気になるし、アメリカに住みながら日本人として生き、活躍したという経歴の背後にある国吉という一人の人間の人生への関心が手伝って、その後国吉に関する本2冊を購った。
山口泰二『アメリカ美術と国吉康雄*3NHKブックス)と、小澤喜雄『飛翔と回帰―国吉康雄の西洋と東洋―』*4(岡山文庫)だ。岡山文庫については、内田百間木山捷平に関する本と一緒に、書棚の目立つところに横積みにされていたが、山口さんの本のほうは積ん読の山に埋もれていた。買ったまま、結局読む機会を失っていたのである。
帰宅後あらためてこの2冊を取り出し(見つけだし)、近いうちに読んでみようと心を新たにしたのである。

*1:http://www.momat.go.jp/IAINMoA/campus/

*2:なお東京国立博物館にも同様の制度があり、やはり同様の優待料金で観られることを知った。→http://www.tnm.jp/jp/guide/campusMembers/index.html

*3:ISBN:414001993X

*4:ISBN:4821251817