澁澤龍彦の評伝的展覧会

澁澤龍彦幻想美術館

この展覧会は澁澤龍彦没後20年を記念して企画されたものだという。あれから20年。わたしが澁澤龍彦という名前を知ってから20年ということになる。早いものだ。
これまでも澁澤にまつわる展覧会はいくつかあったけれど、今回は澁澤が注目し偏愛した美術作品、知友らの作品を中心にした美術展覧会となっている。最近わたしは、前日観た靉光展のように、近代日本社会と密接に結びつきながら生み出された日本人画家による洋画に関心が傾いていたが、現実から大きく飛翔したような、澁澤の愛したマニエリスムシュルレアリスムの作品を久々に目にして、澁澤の影響を受けこれらの作品に熱中した過去の自分を思い出し、懐かしかった。
そういう気分になったのも、予想以上に見ごたえのある素晴らしい展覧会であったからで、作品の量、質はもちろんのこと、澁澤龍彦という日本ではたぐいまれなタイプの作家の人となりまで彷彿とさせられる内容に心底堪能した。
展覧会の監修が巖谷國士さんだというから、この充実ぶりもうなずける。澁澤の生い立ちから交遊関係まで、彼の一生がわかるような写真やオブジェも偏愛した美術作品と同列に展示されていることもあって、彼の評伝的展覧会とも言うべき深みのある空間にどっぷりつかり、久しぶりに澁澤作品に触れてみようか、そんな思いにさせられたのである。
展覧会の図録は、平凡社から書籍のかたちで発売されている。澁澤龍彦 幻想美術館』*1がそれだ。2700円と高価だし(靉光展図録は2000円だった)、澁澤と距離を置きつつあったからなあと思っていたが、見終えてみると、展示作品を今一度書物のかたちでゆっくり眺めたい、そんな気持ちにさせられ、結局購入したのである。
今回観たなかでは、アルチンボルド作品のなかでも、あまり見かけない「ウェイター」という、樽や花瓶などで人間を構成した絵や、イヴ・タンギーエッチング池田満寿夫のコラージュなどが印象に残る。川田喜久治の撮った郵便屋シュヴァルの宮殿や雪のノイシュヴァンシュタイン城、ボマルツォの聖なる森の写真も素晴らしい。
澁澤が晩年に「日本回帰」して偏愛した、酒井抱一の「春七草」「秋七草」の掛幅に広がるマニエリスムや、伊藤若冲のユニークな「付喪神図」を前に、しばし見とれてしまった。
澁澤龍彦を通じて大好きになった、ルネ・マグリットポール・デルヴォーの絵ももちろん並んでいて、やっぱりこの二人のベルギー人画家はお気に入りであることを確認した。
この会場で、いま鎌倉文学館でやはり澁澤龍彦展が開催中であることを知った。行くしかないだろう。