ウルトラの母と緑のおばさん

東京版アーカイブス

相変わらず連載物を追いかけて読むことが苦手である。せっかくお金を出して毎日購読している新聞に掲載された文章についても、単発のものであれば読むには読むが、連載となると字面を眺めただけで、あとは本にまとまってからでいいやと思ってしまう。もったいないことだ。朝日新聞でこの間まで連載されていた丸谷才一さんのエッセイ「袖のボタン」も、ほとんど読むことをしなかった。この間連載が終わり、近々朝日新聞社から単行本が出るそうだから、それを楽しみに待ちたい。
同じく朝日新聞の東京版で週一回日曜日に連載されていた泉麻人さんの「泉麻人の東京版博物館」も、内容的に強く興味を惹かれたものであったにもかかわらず、じっくり読むことはしなかった。見出しの字面を眺めるのが関の山。
だから今回、この連載が『東京版アーカイブス―「あの頃のニュース」発掘』*1朝日新聞社)としてまとまったとき、さっそく購入し通読したのは言うまでもない。われながら無駄なことをしていると心が痛むが、図書館の本が読めないのと同じく性分なのだから仕方あるまい。
まあ単行本には単行本ならではのメリットがある。たとえば足かけ二年に及んだ連載時には、その季節季節にちなんだ記事が多く取り上げられていたようだが、単行本ではそれらをシャッフルし、あらためて引用記事の年月日順に並べ換えがなされている。これによって泉さんがどの時期のできごとに関心を持っていたのかなど、わかる仕掛けになっている。
泉さんと私は年齢が11違うが、昭和30〜40年代の時間の流れにおいては、だいたいこの時間差が文化・流行の伝播の差のようなものであったように思われる。いくら都会と田舎とはいっても、狭い日本、10年は開きすぎなんじゃないのと思われるかもしれないが、自分の感覚では、ツッパリ文化などがそんなタイムラグでずいぶん都会に遅れてわが地方に入ってきたように記憶している。
たとえば本書を読んで思ったのは、アメリカシロヒトリの話題(「アメリカシロヒトリの夏」)。昭和38年6月27日付の記事で、新宿市ヶ谷富久町で大量発生したため殺虫剤を撒布するという話題が取り上げられている。たしかわが住む学区でアメリカシロヒトリ駆除が話題になったのは、自分が小学生の頃だから、昭和40年代末から50年代初め頃のこと。文化や流行の伝播とはちょっと違うが、アメリカシロヒトリも十年かけて東北地方まで北上したのである(いやそれとも、昭和38年時点で東北でも大量発生していたのか?)。
もうひとつ、言いしれぬ懐かしさが込みあげてきたのは、「緑のおばさん」に関する話題だった(「「緑のおばさん」のいた街角」)。昭和35年2月8日付の記事であるが、交通誘導員としての「緑のおばさん」は現在でも都内に200人の正職員が配置されているそうだから、とりたてて古びて歴史に埋もれてしまったというものではない。
わたしが懐かしさを感じたというのは、自分が子供の頃お世話になったという直接的な経験によるものではない。ちょっとズレたものである。たしか「ウルトラマンタロウ」で、ペギー葉山さんが演じたウルトラの母は、人間界にいるときには緑のおばさんに身をやつしていたなあという記憶だった。ヒーロー物の古典であるウルトラマンシリーズのキャラクターが緑のおばさんとは、やはりその頃の世相(交通量激増による事故多発)を如実にあらわしているのだなあと思ったのである。昔はウルトラの母が緑のおばさんであっても何の違和感もなかったけれど、いま思うと相当奇妙ではある。