人間関係としての同級生

同級生交歓

文藝春秋同級生交歓*1(文春新書)を読み終えた。新書新刊で平積みされていたのを手に取りパラパラめくると、これが面白い。あの人やこの人が出ている、そんな驚きが積み重なって、買うことにした。
本書は月刊『文藝春秋』誌の名物グラビア記事で、それがはじまって今年で50年になるのを記念してまとめられたという。小学校から大学(例は少ない)まで、ある学校の同級生同士の再会企画である。もちろん登場するのは各界の名士、ある程度社会に顔が売れている人たちばかりであり、彼らが思い出の場所に集まって撮った写真に、集まったうちの一人がその頃を回想した短文が添えられ、新書オリジナルとしてその同級生たちにまつわるエピソードが加えられている。
これはわたしだけの感覚なのかもしれないけれど、誰かの回想的文章を読んでいて、その人が別の世界で活躍している有名人と学校の同級生だったなどというくだりを読むと、その意外性に驚き、なぜか気分が爽快になる。あの爽快さは何ゆえだろう。
「同級生」というのは、つきつめれば人間関係の一形態である。しかもこの人間関係は自ら主体的に他者と結んでゆくものではなく、多くは偶然性に左右される。ある学校に入学すれば、必然的にまわりには同級生という人間たちが存在することになる。所与のものと言えば語弊があるが、自ら選択できない性質の人間関係である。そもそも学校の同級生に過ぎないから、お互い功成り名を遂げての知り合いでない。人間関係の基点でありながら、死ぬまで解消できない。それが同級生という人間関係の魅力である。
もちろん多くの同級生のなかから、気が合う仲間同士でグループになったり、より深い個人的関係を結ぶこともある。しかしたとえひと言も口を聞いたことがなかったような間柄であっても、同じ学校の同じ学年(同じ入学年もしくは卒業年)であれば、客観的に同級生同士となる。
卒業すればそんな存在をすっかり忘れてしまっていても、数十年後ふとしたきっかけでその人が別の世界で活躍していることを知ったり、それすら知らずに第三者を介してお互い同級生だったことを思い出すこともあるだろう。逆に親友同士で卒業後も付き合いを続け、それぞれ別の世界で第一人者になってゆくこともある。
何か気に喰わぬことがあってすれ違いだった間柄であっても、何十年という時間がそれを解決してくれる。大人になり社会に出てから結んでゆく(結ばざるをえない)人間関係とは本質的に異なる、こうした清々しい人間関係に強烈な憧れを感じるとおぼしい。
本書には坪内祐三さんが序文を寄せており、この文章のなかにこの企画の面白さが尽くされているといってよい。坪内さんは高校生頃からこの連載の漫然たる読者だったが、「大学二年の頃(東海林さだおと詩人の清水哲雄が都立立川高校で同級だったことを紹介した号)からその本格的な読者となっていた」という。この具体性がいかにも坪内さんらしい。
序文を書くにあたり全連載に目を通したという坪内さんは、本書に収録されていない号の組み合わせにもさすが目配りが行きとどいている。谷垣財務大臣川本三郎さんが麻布中学の同級生だったとは。松田哲夫さんと「報道ステーション」の加藤千洋さんも麻布中学の同級生なのだという。
同じ人が違う同級生との組み合わせで再度登場した例や、意外性のある組み合わせの指摘も坪内さんらしい目の付けどころが光り、また、トリビアルな知識として山口瞳さんが最多登場者(4回)であり、最短再登場者(半年後)が中村光夫だったり、サービスも忘れない。
さてわたしが本書を読みながら、その意外性や、同級生同士のつながりに爽快さをおぼえた組み合わせは次のようなものだ(括弧内の肩書きは本書で付された初出当時のもの)。

新京(現在の長春)の小学校での同級生同士名が知られた人であることの驚き。この二人はお互い相手を覚えていないという。しかも二人が在学したのは昭和12年の小学一年生の一学期だけだったというから、奇跡的な出会いである。

小沢栄太郎の文章が味わい深くてすばらしい。

そうそう、この二人は山形出身なのだった。

この三人はふじたさんの“戸板康二ダイジェスト”で有名な同級生トリオだろう。

坪内さんは伊藤雄之助が後年もう一度、まったく別の幼稚舎同級生と登場していることを指摘し、「この人選の微妙な変化」を訝しんでいる。

別に上野高校になってからの同級生として、荒木経惟立花隆千足伸行成城大学助教授)が取り上げられている。

この麻布中の同級生たちは有名だ。

上の同級生たちより一学年上だという。

この三人もかなり意外な組み合わせ。

この特徴ある二人のツーショット写真は強烈な印象を残す。

あの荒木一郎竹脇無我が…。

田宮二郎は団令子を覚えているが、団は田宮を覚えていないという。

ところでわたしが本書を買おうと思ったのは、滝野川第七小学校の回に登場している澁澤龍彦の写真と、上に挙げた伊藤雄之助山村聰の回に惹かれたゆえだった。種村季弘さんも、東大教養学部の回で、例の同級生たち(松山俊太郎・吉田喜重石堂淑朗・阿倍良雄ら)と一緒に並んで写真に収まっている。