風俗とドラマ

女の園」(1949年、松竹大船)
監督・脚本木下恵介/原作阿部知二高峰三枝子高峰秀子岸惠子久我美子田村高廣金子信雄東山千栄子毛利菊枝/田浦正己/望月優子浪花千栄子井川邦子/山本和子

わたしがむかしの日本映画を観るとき、期待(注目)している点は、俳優であり、ストーリーであると同時に、映画に映る昭和20〜30年代の風俗もあげられる。ともすればストーリー以上に、脇役俳優の出演場面や人間の背後に映る東京風景に惹かれて嬉しくなってしまうことがある。
木下恵介監督の代表作の一つ「女の園」は、京都にある女子大を舞台にしている。東大のようなスクラッチタイルに覆われたゴシック風の校舎が気になる。石柱の飾りもそっくりだから、ますますロケ地を知りたくなった。
しかしながら、観ているうちそういうことが気にならなくなってきた。2時間20分、一気に物語に吸い寄せられ、持っていかれた。現実には一日で観切ることができず、二日にわたって観たのだけれども、感覚的には一日で一気に観終えたような気分になる。
女学生らに厳しい寮監の高峰三枝子、学生と学校の板挟みになる補導監金子信雄、三年間会社員勤めをしてから入学したものの、勉強について行けず、東京にいる恋人田村高廣との恋路が学校と田村の父親に邪魔され、悩み抜く高峰秀子、学校の方針に毅然と反抗する岸惠子、学校に財政的援助をしている財閥の娘でありながら、左翼的思想を持ち学生の自由を得ようとやっきになる久我美子、それぞれにキャラクターが際だって素晴らしい。
とりわけ高峰秀子田村高廣との恋に悩み、岸惠子の停学問題で精神的に追い詰められてゆくあたりの取り乱しようが迫真だった。最初学校側のスパイのように久我美子の行動を詰問した山本和子が、実は共産党の人間で、最後に学生たちの先頭に立って自由を獲得しようと煽動するあたりの意外性も見事。長部日出雄『天才監督 木下惠介*1(新潮社)によれば、山本和子はのち劇作家矢代静一夫人となり、二人の次女が女優毬谷友子だという。
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