色川づいた横手

いま、またまた横手にいる。一月に一度訪れ、本当は今月初旬にまた来る予定だったのだが、わたしがインフルエンザに罹ったため、二週間出張が延期されたのである。
横手はつい数日前、名物の「かまくら」祭りが終わったばかり。東京は気持ちいい青空が広がる快晴だったが、東北地方日本海側の盆地にある横手は、まだ重苦しい雲が空を覆っている。
横手に着いたときも雪が降りしきっていた。一泊二日の旅程であるため、午後の会議の前にブックオフに行こうと、いつものように駅のコインロッカーに荷物を預け、10分ほど歩いて店にたどり着いた。この間駅に降りたときに増して雪降りがひどくなり、傘は雪で真っ白に、ズボンも雪で濡れてしまうほど。「なんでこんなことまでしてブックオフに来なきゃいけないんだ」と自問自答する始末だった。
けれどもこの疑問は、店に出るときまでには吹き飛んでいた。色川武大本の嬉しい収穫があったからで、極端に言えばこの一冊を手に入れただけで、もう横手に来た甲斐があったと大満足だった。このところ横手での収穫は芳しくなかったのだが、久しぶりに良質な本を買うことができたのだった。

色川武大『花のさかりは地下道で』(文春文庫)
カバー、250円。色川さんの文庫本中、唯一持っておらず、長いこと探していた本。嬉しい嬉しい。そういえばこの店ではかつて『街は気まぐれヘソまがり』の入った『阿佐田哲也色川武大全集』の端本や、没後刊行のエッセイ集『ばれてもともと』を購入したことがある。行きのこまち車中では色川さんの本を読み終えたばかり(感想は後日)、色川さんに縁のある町だ。ISBN:4167296020
殿山泰司『バカな役者め!!』(ちくま文庫
カバー、350円。短篇集。先日の出張で同文庫版『三文役者あなあきい伝』を買ったばかり。そのときにも本書はあったはず。既所持の本だから買わなかったのだ。ただ小口が削られていたはず。今回は色川本を手に入れた嬉しさが手伝い、心が広くなった。ISBN:4480036210
奥野健男『ねえやが消えて―演劇的家庭論』(河出書房新社
カバー・帯、105円。「ねえや」という存在を軸に論じる日本近代文学論。「原っぱ」論といい、奥野さんの切り口は関心をかき立てられる。前々から気になってはいたが、こんなところで、しかも105円で見つけられるとは。ISBN:4309006698
丸谷才一『おっとりと論じよう―丸谷才一対談集』(文藝春秋
カバー・帯、750円。昨年末新刊で出、書籍部にはいまでも新刊コーナーに並んでいる。丸谷さんの本なので購入を迷っていたが、対談集ということで躊躇しているうちブックオフで遭遇したのは、これまた幸運。ISBN:4163676708