夕刊フジ連載エッセイ中間報告

山藤章二さんが挿絵を担当した、山口瞳『酒呑みの自己弁護』や吉行淳之介『贋食物誌』、および昨日触れた藤本義一『サイカクがやって来た』などは、すべて『夕刊フジ』連載エッセイであった。
もともと一篇一篇が短いながら、内容がつまっていて、しかもそれらがある程度統一されたテーマで書かれているというエッセイが大好きなわたしとしては、この『夕刊フジ』連載エッセイ群は好みのツボにはまったと言うべきである。そうとは知らずに、読んだあとで「ああこれも『夕刊フジ』連載だったのか」と驚いたものもある(阿佐田哲也『ぎゃんぶる百華』など)。
これまで何度か触れてきたことだが、この連載において山藤さんが挿絵担当者として登場したのは梶山季之の「あたりちらす」からである。そこで、この梶山の連載を皮切りに、“文壇エッセイ”的枠組みが比較的残った1993年の丸谷才一「軽いつづら」までについて、連載者・タイトル、連載期間・回数、その連載の刊行書誌などをできる範囲で調べ、まとめたのが下記一覧表である。調査は東京大学情報学環附属社会情報研究資料センター所蔵のマイクロフィルム・原紙に対して行なった。
夕刊フジは1969年に創刊され、梶山連載まで約2年あきがあり、この間にも連載エッセイがあることは知っている。永六輔さんが、一年目の連載は自分であったとエッセイが始まったと書いている(『評論家ごっこ』所収「まえがきごっこ」)。また、高木東六『とうろくラプソディ』(中公文庫)も、夕刊フジ連載をまとめた本であることも承知している。
これらはいずれ追加調査を行なうことにして、今回は、山藤挿絵本への個人的関心という事情もあり、夕刊フジ連載エッセイという名声を不動のものにした梶山・山藤コンビから調査を始めることにした。
調査の下限も本来であればもう少し厳密に線引きしなければならない。現在のように日替わりで週1回というペースに切り換えられたあたりがその第一候補となるだろう。泉麻人さんが「地下鉄の友」以降も何度か登板していることも知っている(ただしこれが毎日なのか、週1なのかわからない)。こちらについても、いずれやるつもりである。
調査の過程でいろいろとわかってきたことが多い。断片的ながら、以下箇条書きで列記したい。

  • 初期においては、連載すべてを挿絵も含めそのまま一冊の本にするというプロセスがじゅうぶん確立していなかった。山口瞳「飲酒者の自己弁護」→『酒呑みの自己弁護』が最初の例で、やはり山藤さんとのコンビの本が一緒にまとまるケースが多くなり、次第にそれが他の連載にも拡大していったというかたちになる。
  • 同じく初期においては、梶山季之山藤章二)、遠藤周作清水崑)、笹沢佐保藤原審爾(宮田雅之)、柴田錬三郎岩田専太郎)、檀一雄横尾忠則)など、挿絵の大御所的人物が起用されているが、檀の『蘆の髄から』(全部)、梶山の『梶山季之のあたりちらす』(一部)以外、著書となったときには挿絵はまったく入れられないものが多い。
  • 藤原審爾北杜夫五味康祐寺内大吉など、著書にまとめられたかすらわからない連載もある(少なくとも連載タイトルのまま著書にはなっていない)。
  • 女性第一号は田辺聖子さん。二度以上登板しているのは、藤本義一丸谷才一青木雨彦遠藤周作(遠藤さんの場合、二度目以降は対談)。
  • つかこうへい「つかへい犯科帳」は、メインの百回分は山藤さんの挿絵で、単行本・文庫本にもすべて収録されているが、ひきつづき「番外編」として続けられた20回分については、挿絵が和田誠さんに変わっており、こちらは未収録で貴重(ただし別の著書に収録されている可能性もあり)*1
  • 挿絵担当回数がもっとも多いのが山藤章二さんの15回、次いで黒鉄ヒロシさんの6回。

表中の連載開始・終了の日付は、発売日ではなく、発行日(紙面の上端に記されている日)である。刊行書誌中の★はわたしが所持している本。
単行本の書誌や刊行年など調査が行き届いていない部分が多いうえ、上述のようにそもそも単行本化の有無すら判明しないものもある。ひとまず形にすることが大事だと思い、不十分ながら公開することにした。少しずつ調査を重ねてデータを補訂し、完璧を期したい。下記データについて追加・訂正情報などがあったら、ぜひともお知らせください。本好きの人にとって、このデータが、面白いエッセイ集を探す手づるとなれば幸いである。

連載者
タイトル
連載開始日
終了日(回数)
挿絵担当者 刊行書誌
1 梶山季之
「あたりちらす」
71/7/22
72/1/18(153)
山藤章二 サンケイ新聞社出版局『梶山季之のあたりちらす』★
2 遠藤周作
「狐狸庵閑話 人情編」
72/1/19
72/5/14(99)
清水崑 講談社文庫『ぐうたら人間学―狐狸庵閑話』★1976年に抄録(イラスト無)
3 山口瞳
「飲酒者(さけのみ)の自己弁護」
72/5/16
72/9/24(113)
山藤章二 新潮社『酒呑みの自己弁護』1973年★→新潮文庫
4 笹沢左保
「紋次郎の独白(ひとりごと)」
72/9/26
73/2/25(132)
宮田雅之 サンケイ新聞社出版局『紋次郎の独白 旅と女と三度笠』1973年★
5 筒井康隆
「狂気の沙汰も金次第」
73/2/27
73/7/15(118)
山藤章二 新潮社★→新潮文庫
6 柴田錬三郎
「どうでもいい事ばかり」
73/7/17
73/12/9(126)
岩田専太郎 集英社文庫『地べたからもの申す』★に抄録(イラスト無)
7 吉行淳之介
「すすめすすめ勝手にすすめ」
73/12/11
74/4/10(100)
山藤章二 新潮社『贋食物誌』1974年★→新潮文庫1978年★
8 檀一雄
「蘆の髄から」
74/4/11
74/8/8(103)
横尾忠則 番町書房(1976年、横尾忠則装幀)★
9 藤原審爾
「人と人との間」
74/8/9
74/12/8(104)
宮田雅之
10 井上ひさし
「巷談辞典」
74/12/10
75/4/18(110)
山藤章二 文藝春秋1981年★→文春文庫1984年★
11 丸谷才一
「男のポケット」
75/4/19
75/8/27(111)
和田誠 新潮社★→新潮文庫
12 北杜夫
マンボウ雑記帳」
75/8/28
75/12/10(89)
ヒサクニヒコ
13 五木寛之
「重箱の隅」
75/12/11
76/4/11(105)
山藤章二 文藝春秋1979年★→文春文庫1984年★
14 田辺聖子
「それゆけおせいさん」
76/4/13
76/9/5(125)
高橋孟 新潮文庫『ラーメン煮えたもご存じない』★
15 渡辺淳一
「努力してもムダなこと…」
76/9/7
77/1/1(100)
山藤章二 新潮社『午後のヴェランダ』1979年(イラスト無)→新潮文庫1983年★
16 阿川弘之
論語知らずの論語読み」
77/1/4
77/5/15(112)
おおば比呂司 講談社文庫(イラスト無)★
17 藤本義一
「サイカクがやって来た」
77/5/17
77/9/9(100)
山藤章二 新潮文庫
18 遠藤周作
「酔生夢死(ようていきゆめにしす)」
77/9/10
78/1/5(99)
宮尾しげを 文藝春秋『狐狸庵ぶらぶら節 ウスバかげろう日記』1978年★→文春文庫1980年
※最後の二回分は遠藤竜之介「豚児がみた親父」
19 川上宗薫
「わが女性遍歴」
78/1/6
78/7/2(151)
原田維夫 サンケイ出版『告白的女性遍歴』1978年
20 青木雨彦
「三尺さがって六尺しめて」
78/7/4
78/10/29(101)
山藤章二 講談社『にんげん百一科事典』1979年★→講談社文庫★
21 滝田ゆう
滝田ゆうの昭和夢草紙」
78/10/31
79/2/25(101)
滝田ゆう 新潮文庫『昭和夢草紙』★
22 五味康祐
「人相学的おんな論」
79/2/27
79/5/20(71)
秋山庄太郎(写真) サンケイ出版『一刀斎の観相学的おんな論』1980年★
23 寺内大吉
「大吉和尚の丸もうけ説法」
79/5/22
79/9/30(113)
古川タク
24 落合恵子
「女と男の色はかるた」
79/10/2
80/2/24(122)
灘本唯人
25 豊田穣
「男の劇場」
80/2/26
80/6/22(100)
柳原良平 新潮社『男の人生劇場』★
26 中島梓
「にんげん動物園」
80/6/24
80/10/23(104)
山藤章二 角川書店★1981年角川文庫★
27 阿佐田哲也
「ぎゃんぶる百華」
80/10/24
81/2/22(102)
黒鉄ヒロシ 角川書店1981年→角川文庫1984年★
28 小林信彦
「笑学百科」
81/2/24
81/6/21(101)
峰岸達 新潮文庫
29 生島治郎
「女の寸法 男の寸法」
81/6/23
81/10/18(101)
黒鉄ヒロシ サンケイ出版1981年→徳間文庫1984年★
30 つかこうへい
「つかへい犯科帳」
81/10/20
82/2/14(100)
山藤章二 角川書店1982年★→角川文庫1984年★
31 つかこうへい
「つかへい犯科帳 番外編」
82/2/16
82/3/10(20)
和田誠 角川書店『つかへい腹黒日記』1982年→角川文庫1984年★
32 三田誠広
都の西北
82/3/11
82/6/6(74)
黒鉄ヒロシ 河出文庫1982年★
33 岡本喜八
「ただただ右往左往」
82/6/8
82/9/5(78)
灘本唯人 晶文社1983年★
34 高橋三千綱
「女のゐない國」
82/9/7
83/1/1(100)
小林まこと
(題字山藤章二
新潮社『女のいない国』(1983)→新潮文庫(1986)★
35 阿刀田高
左巻きの時計」
83/1/5
83/5/8(104)
久里洋二 新潮社1983年★→新潮文庫1986年★
36 村松友視
「私、小市民の味方です。」
83/5/10
83/9/4(102)
山藤章二 新潮社1984年★→新潮文庫
37 岡村喬生
「オタマジャクシ酩笑曲」
83/9/6
84/1/1(101)
黒鉄ヒロシ 新潮社1984年★
38 殿山泰司
「三文役者いろ艶ぴつ」
84/1/5
84/5/6(105)
南伸坊 講談社殿山泰司のしゃべくり105日』★
39 遠藤周作
「狐狸庵ぐうたら怠談」
84/5/8
84/9/30(125)
秋山卓美
40 山口洋子
「これぞ!!100人の男」
84/10/2
85/2/3(105)
長友啓典
41 遠藤周作
「狐狸庵ぐうたら怠談」
85/2/5
85/6/30(123)
秋山卓美
42 森瑤子
「男上手女上手」
85/7/2
85/11/1(105)
佐野洋子
43 諸井薫
「ああ、女」
85/11/2
86/3/2(100)
写真(不特定)
44 景山民夫
「森羅百象ナマ殺し」
86/3/4
86/6/27(100)
山藤章二 講談社『食わせろ!!』1986年→講談社文庫1990年★→角川文庫★
45 遠藤周作
「狐狸庵ぐうたら怠談」
86/7/1
86/11/9(113)
秋山卓美
46 高橋治
「人間ぱあてい」
86/11/11
87/3/15(104)
村上豊 講談社1988年→講談社文庫1992年★
47 三浦朱門
「人は人 オレはオレ」
87/3/17
87/7/19(106)
アオシマ・チュウジ
48 林真理子
マリコとショージのチャンネルの5番」
87/7/21
87/11/22(104)
山藤章二 講談社文庫『チャンネルの5番』★
49 塩田丸男
「愛妻物語」
87/11/25
88/3/27(100)
黒鉄ヒロシ 毎日新聞社『愛妻物語』
50 安部譲二
「屁無頼語講座 100日コース」
88/3/29
88/7/31(104)
村上豊 徳間書店『スゴめ、サラリーマン!』1989年→徳間文庫『サラリーマンの屁無頼語講座』1994年★
51 藤本義一
「東西あきんど大學」
88/8/2
88/12/30(125)
滝田ゆう ダイナミックセラーズ『東西あきんど大學(上・下)』1989年★
52 永六輔
「評論家ごっこ
89/1/5
89/5/14(103)
浜本ひろし 講談社1989年→講談社文庫1992年★
53 横澤彪
「ギョーカイくん流儀」
89/5/16
89/9/10(102)
山藤章二 講談社『とりあえず!?』1990年★
54 阿部牧郎
「毎日が〆切日」
89/9/12
90/1/21(102)
井上あきむ 文藝春秋1990年★
55 青木雨彦
古今東西 男は辛い」
90/1/23
90/5/27(102)
黒鉄ヒロシ 文藝春秋1990年★
56 中島らも
「しりとりエッセイ」
90/5/29
90/9/30(105)
ひさうちみきお 講談社1990年→講談社文庫1993年★
57 群ようこ
「肉体(BODY)百科」
90/10/2
91/2/10(103)
浜本ひろし 扶桑社1991年→文春文庫1994年★
58 泉麻人
「地下鉄の友」
91/2/13
91/6/29(100)
蛭子能収 産経新聞生活情報センター1991年→講談社文庫1995年★
59 夢枕獏
「戦慄!業界用語辞典」
91/7/2
91/11/23(101)
いしかわじゅん 講談社『戦慄!プ業界用語辞典』1992年→講談社文庫1995年★
60 石原良純
「あそびに行こうよコール」
91/11/26
92/4/25(101)
浜本ひろし 新潮社1992年
61 池田満寿夫
「犬と女の物語」
92/4/28
92/10/3(110)
池田満寿夫 文藝春秋『しっぽのある天使―わが愛犬物語』1995年→文春文庫1997年
62 丸谷才一
「軽いつづら」
92/10/6
93/3/6(101)
和田誠 新潮社1993年→新潮文庫1996年★

*1:この問題については、角川文庫『つかへい腹黒日記』に新稿を加えた上で収録されていることが判明した。和田さんのイラストもおそらく全て収録されている。2006年8月記。