永井龍男署名・自筆俳句入本

★『永井龍男全集 第四巻』(講談社
函・帯、2000円。献呈署名、自筆俳句入。

はじめて大阪に出張に行った。大阪という町に宿泊するのも初体験。「モダン大阪」を満喫するまではいかなかったけれども*1、仕事を終えたあと、古本好きの同僚に連れられ、大阪の古本屋数店をめぐることができた。
天王寺の地下街にある「古書さろん 天地」で、並んでいた『永井龍男全集』の端本が晩年期の短篇を編んだ「短編小説4」の巻だったので、ふと棚から抜き出し、後見返しの値段を確認したところ、「献呈書入有」という注記を見つけた。訝しく思い、前見返しを見ると、献呈署名のうえに俳句まで書かれてあったことに興奮してしまった。
2000円という値段ゆえ、東京で見つけたらあるいは購入しなかったかもしれない。旅先で多少精神的な(「経済的な」ではない)ゆとりがあること、また簡単に再訪できないこと、永井龍男の短篇は好きで、とくに晩年であればますます枯淡の味わいがあるに違いないという期待、書かれてあった俳句の内容などから、思い切って買ってしまう。
本巻には30篇の短篇が収められている。帰宅後確認すると、既読の作品は「青梅雨」1篇のみだったが(新潮文庫『青梅雨』所収)、『一個/秋その他』*2講談社文芸文庫)の14篇中10篇が重複していた。
まあそれは仕方ない。嬉しいのは署名と俳句だ。俳句は「あたたかに江の島電車めぐりくる」というもので、鎌倉を愛した作者らしく、字面からぽかぽかと陽気が伝わってくる味わいに感じ入り、そのまま棚に戻すことができなかった。
これまた帰宅後、同全集12巻に収められている俳句を検したところ、同じ句は見あたらなかった。句集などに拾われなかったものか。未発表句ならば面白いのだが。逆に赤の他人が作者を騙って見返しに句を書き入れたという可能性もないわけではないが、おぼろげな記憶にたよると、たぶん本人の字に間違いはないのではないか。
年末年始、実家のこたつにもぐって、蜜柑でも頬ばりながら本書を読むというシチュエーションが頭に浮かんできた。

*1:帰るとき、阪急百貨店(阪急梅田駅)の豪華な内装を見ることができた。

*2:ISBN:4061961217