気宇壮大「生々流転」

今回もまた国立公文書館に仕事で行った帰り、金曜日の開館時間延長を利用して常設展を観た。先月観た常設展(→10/14条)と展示品はほぼ同じだが、そのとき書いたように、横山大観の長大な絵巻「生々流転」が会期を二つに分け、それぞれ前半と後半を展示するため、前半の期間に訪れた来場者に後半期間限定の無料入場券を配布するというありがたいサービスがあったのである。
ということで、「生々流転」の後半部をじっくり鑑賞。湿った空から一滴の水滴が地面に落ち、大地にしみ込み伏流水となり、それが一筋の川になって、だんだんと流れが大きくなる。最後には悠々たる大河となって海にそそぎ、海の荒波から龍が生じて天に昇ってゆく。そんな気宇壮大なストーリーが絹をつなぎ合わせた40メートルの長大な絵巻としてひとつながりに描かれている。鳴り物入りで宣伝しているだけあって、やはり素晴らしい。
その他の展示作品は、一度観たので、関心のあるものに絞ってあとはさらりと流す。後半期展示というもののなかでは、岸田劉生の絹本彩色の掛幅「人蔘図」「冬瓜茄子図」、また結構好きな日本画速水御舟の「ひよこ」、前半期には「明治風俗十二ヶ月」の掛幅でうっとりさせられた清方は、それに替わって「初冬の花」「巣林子」の2幅。芝居の情景を取り入れた(?)「巣林子」がいい。
田英夫「帰路」は何度観ても素晴らしい。隣の隣にある清水登之の「チャイナタウン」も好きなのだが、乱暴に言えば、清水の絵は絵の上手い人なら真似できそうだけれど、野田の画風は誰にも真似できないという感じ。
前回訪れたときにはなぜか見逃してしまった「第3章 戦時と「戦後」の美術」のパートでは、靉光香月泰男にも惹かれるが、何と言っても松本竣介の「並木道」に見とれた。緑を基調にした色合いの、両側に並木があるY字路の坂道が描かれている。猛烈に「欲しい」と思った作品だった。
そんなこんなで、「並木道」の絵葉書がないものか、帰りにミュージアムショップに立ち寄ったけれど、あいにく作られていなかった。仕方がないので、松本竣介の代表作でこれも好きな作品である「Y市の橋」や野田の「帰路」、藤牧義夫の「赤陽」などの絵葉書を買い込んだのだった。