汗と夕立(と脇役)
- 「監督 黒澤明の仕事」@日本映画専門チャンネル(録画HDD)
- 「野良犬」(1949年、東宝)
- 監督黒澤明/脚色菊島隆三/三船敏郎/志村喬/木村功/淡路恵子/三好栄子/河村黎吉/千石規子/岸輝子/東野英治郎/本間文子/飯田蝶子/菅井一郎/千秋実/清水将夫/高堂国典/伊藤雄之助
若手刑事の三船敏郎が大混雑の電車内でピストルをスラれてしまう。三船は敗戦直後の東京の町のなかを徹底的に捜し回るが、そのピストルを使った連続強盗殺人事件が発生してしまい、いっそう焦って先輩刑事の志村喬とともに犯人を突き止めてゆく。
下っ端刑事が徹底的な捜査によって犯人を絞り込み、追い込んでゆくということのサスペンスが主眼ではなく、刑事や犯人、また犯人を知る人間たちの棲息する焼跡の東京という町を描き出すのが大きな目的のようである。そんなあたりがゾクゾクする。
三船も犯人の木村功も、いずれも復員兵で、復員時にリュックを盗まれたことから人間不信の虚無感に襲われ、一人はそうした犯罪をあげる側、一人は犯す側になるという図式は、すでに川本三郎さんの『今ひとたびの戦後日本映画』*1(中公文庫)で指摘ずみだ。なんともうまい設定だし、敗戦の世相、人間模様というものを象徴的に示していることになるのだろう。
三船・志村といった主演陣については、いまさら言うことはない。やはりこの映画でも、脇役陣の好演というものがあってこそという気がする。三船に執拗に尾行される女スリの岸輝子や、ピストル屋のヒモである仙石規子の薄汚れた雰囲気。木村の義兄で仏頂面で黙々と桶を作りつづける東野英治郎。何だか胡散臭いホテルの支配人菅井一郎。木村の恋人淡路恵子が勤めるレビュー小屋の支配人で、淡路に警察が面会に来たことを愚痴らずにはいられない伊藤雄之介などなど。たまらない。
淡路恵子は本作がデビュー作にあたるらしい。たまたま先日古本屋で入手した文藝春秋の雑誌『ノーサイド』1994年10月号(「総特集 戦後が似合う映画女優」)のなかで、森本毅郎さんが「私のヒロイン」と題し彼女を取り上げた小文を寄せている。
森本さんは「野良犬」を観ると「ああ、まさしく子供の頃に暮らした東京だあ」
と懐かしくなるという。それによれば、当時淡路恵子は松竹歌劇団に入り立ての16歳、映画なんかいやよと洟もひっかけなかったという本多猪四郎助監督の話に言及している。たしかに「野良犬」の淡路恵子は後年の色っぽさが薄く、野暮ったい。彼女の母親が三好栄子で、これがまた存在感があるのだな。
ところで前記『ノーサイド』の総特集では、戦後活躍した女優168人について、太田和彦・木全公彦・田中眞澄・丹野達弥四氏が偏愛の短文を寄せた女優図鑑で、買ってから飽きずにめくりかえしている。