第68 横手にて

風に吹かれて

いま出張で横手にいる。2月の大雪のときと同じ駅前のホテルに泊まっているが、そのときにはなかったLAN接続のコネクタとケーブルが部屋に備え付けてあって、持参していたノートPCからネットにつなぐことができた。
もとより明日の不忍ブックストリートは、実家の用事が入る可能性があるということで、早々に出店をあきらめていたけれど、それが入らなかったかわりに、この出張が入ってしまった。明日好天にめぐまれ、成功裡に終わることをお祈りしたい(延期になれば私も買い手として参加できると思うのだけれど、せっかくこの日を目指して皆さん準備されているのだから、雨天はのぞましくない)。
冷静に考えれば、ゴールデンウィーク初日から東北に旅することができたのだ。出張という名の「東北旅行」に行くと考え直せばいいと自分を慰める。
ゴールデンウィークの東北地方は、田植えのため田んぼに水が張られはじめ、その景色が一面「大地の鏡」のごとく、青空を地面に映してそれは美しいものだ。東京に移住してからこのことに気づくという迂闊さ。
これに気づいて気分がやや前向きになった。ところが、イメージしていた風景になるには、まだちょっと早すぎたようだ。田んぼのうち水が張られているのはごくわずかしか過ぎない。数パーセントという程度だった。「大地の鏡」になるのはゴールデンウィーク明けあたりか。ちょっぴりがっかりする。
ただそれに変わって気持ちを高揚させてくれる風景があった。桜だ。考えてみれば、東北地方、とりわけ私の郷里山形あたりは4月下旬が桜が満開となる季節なのだった。宮城、岩手ではそれに近いほど、桜の花が咲き誇っている。北上市北上川辺(展勝地)では桜の花が満開であると同時に、名物の鯉のぼりの大行列が風に元気に泳いでいる。
こうなるとワクワクしてくるのは、秋田角館の桜である。東北地方の桜の名所といえば、弘前に角館。横手に行くため乗っているこまちは角館を通るのだ。
ところがところが、角館はちょっと北にあるからか、川沿いの桜並木は蕾の状態で、もうすぐ花をほころばせそうな状態の濃いピンク色をしているのみだった。たぶん花見目当てなのだろう、角館で多くの人が下車したが、今年は総じて桜は遅れ気味のようだ。横手でも、咲いているところは満開に近いが、花見の名所と言われるような公園ではまだもう少しかかりそうだとのこと。
ブックストリート歩きがならないかわり、横手に来るといつも立ち寄るブックオフ横手13号店(横手駅から歩いて10分程度)に、仕事(会議)の前に立ち寄った。

結城昌治『泥棒たちの夏休み』(講談社文庫)
カバー、105円。遺作。元版は持っている。ISBN:4062647311
都筑道夫まぼろし砂絵 なめくじ長屋捕物さわぎ』(角川文庫)
カバー、250円。このシリーズは初めて購う。角川文庫版は山藤章二さんがカバーイラスト担当。ISBN:4041425352
五木寛之『風に吹かれて』(集英社文庫
カバー、105円。このところ岡崎武志さんを発信源に、ファンの皆さんの間で盛り上がっている佐野繁次郎装幀本。わたしも佐野繁次郎展を見たのだが、源氏鶏太本ばかりに気をとられ、五木本はまったくノーマークだった。そうしたら、この店で偶然見つけた。内容はエッセイ集で、悪くなさそう。五木寛之さんの作品はほとんど興味を示したことがなかったが、“山藤挿絵本”たる『重箱の隅』(文春文庫)前後の時期のエッセイ集なら、いいかもしれない。目次を見ると、「古本名勝負物語」なんてそそられるタイトルの一篇もある。佐野繁次郎の装幀も、文庫本の装幀としてはかなりハイブラウな雰囲気で素敵。この本に出会ったのは岡崎さんをはじめとする皆さんのおかげです。感謝申し上げます。