ひろい読み断腸亭日乗(8)

  • 大正15年7月30日条

七月三十日。空晴渡りて炎暑昨日に比すれば稍忍易し。晩間遠雷殷殷、驟雨沛然たり。山形ホテル暑中旅客なく、食堂を閉す由なれば、銀座風月堂に徃きて食事をなす。帰宅後小説の草稾二三枚をかき得たり。
「遠雷殷殷、驟雨沛然」なんていう表現はもはや死語になりつつある。でも「いんいん」「はいぜん」と打つとちゃんと変換されるからATOKは偉い。
ちなみに殷々は「音の盛んなさま、雷や大砲や車などの音のとどろくさま」、沛然は「盛大なさま。雨のさかんに振るさま」(『広辞苑第四版』)。どちらも「盛ん」という状態を意味する言葉ではあれど、見事に使い分けられている。