新潮文庫の白背のはなし

新潮文庫・白背

昨日触れた都筑道夫さんのエッセイ集『昨日のツヅキです』*1新潮文庫である。都筑さんの新潮文庫での背の色は白だ。都筑さんの場合は偶然かもしれないけれど、新潮文庫では、白背はまとまった数の著作がない単発の著者に用いられることが多いのではないかと推測する。
ただこの白背のなかにとびきりの名著好著がひそんでいるからあなどれない。都筑本の場合はまさにそんな感じだった。古本屋の棚に目を這わせるときも、新潮文庫の白背は無意識にチェックしている。
白背といえば、以前読んだ田中小実昌さんの『ぼくのシネマ・グラフィティ』も同じ(→3/29条)。こちらはもとより新潮社で出た単行本の文庫化だが、都筑さんのエッセイ集の一年前(1986年)に文庫に入っている。田中さんの本に都筑さんが、都筑さんの本に田中さんが互いに登場しているし、それぞれ映画に触れた本ということで、ひょっとしたら同じ編集者による企画なのかもしれない。
ところで都筑本の巻末を見ると、1987年11月に同時に発売された(つまり87年11月の新刊)ラインナップがわかる。そこには、たとえば色川武大さんの『うらおもて人生録』*2沢村貞子さんの『私の浅草』*3吉行淳之介『特別恐怖対談』開高健監修洋酒天国2』などの本がずらりと並び、いまの私の関心で当時の新刊に接していれば大興奮していたのではないかと容易に想像できる。
このうち私は色川さんの本と沢村さんの本を持っている。沢村さんの本は未読なのでなんとも言えないけれども、色川さんの本は私の人生の教科書であると、ここでも幾度か書いたことがある。そうか都筑さんの本と同時に文庫になったのか。
しかも色川さんの場合も、これまた偶然かもしれないが白背だ。新潮文庫に色川さん名義の著作は五冊あるから、最初に挙げた例に合致しない。色川さんの選択なのだろうか。
それはともかく、私の所持する色川本は古本屋で手に入れたもので、新刊当時の帯が付いている。見ると陣内孝則が草原に寝そべって本を読みながら、足に凧糸をくくりつけて凧揚げしているとおぼしき写真に、「年末年始に楽しむ本」という惹句が赤字で印刷されている。色川本に都筑本に沢村本、開高本。1987年から88年にかけての年末年始にタイムスリップしたとすれば、さぞかし新潮文庫の新刊読書で明け暮れることになっているのかもしれない。いや、年末年始になる前に手をつけてしまっているか。
ちなみに最初に掲げた写真は、わが書棚を見回して目についた新潮文庫の白背本の一部を抜き出して撮影したものである。