荷風は戦後昭和21年から亡くなる同34年まで13年間を市川で過ごした。その市川での荷風の足跡をたどる展示。『断腸亭日乗』原本から書簡、戸籍・質札などの資料、日用品、蝙蝠傘や買物籠・下駄など身につけていたもの、住んでいた部屋の実物大モデル、そしてそして石塚公昭さん撮影の写真に石塚さん制作の荷風人形。荷風人形が手に提げている買物籠に大根一本が入っている!!のを見つけてにんまり。
原資料に増して興味深かったのは、パネル展示されていた、市川での知人の回想譚や荷風目撃譚。またその脇には、来場者が自らの荷風目撃譚を書いてパネルに貼り付けている。それが五つほど。多くは当時は汚らしかったという印象だが、いまとなってはただ懐かしい思い出となっているとおぼしい。「荷風の記憶」はいまも市川に根づいているのである。こんな市川での「荷風の記憶」をどこかまとめてくれないものか。
初日ということもあり、川本三郎さんの講演会もあるゆえか、来場者多し。その川本さんも講演の前に会場で展示をご覧になっていた。誰も気づかず。観察していたら、前述の目撃譚パネルを熱心に読まれていた。