今年出会った作家(その4)―山本周五郎

山本周五郎の本

藤沢周平の作品世界に自分の気持ちがしっくりとなじむようになったことにも驚いたけれど、まさか山本周五郎にも同様にはまりこむとは思いもしなかった。
あの新潮文庫の青メタリック風の背表紙がわが蔵書になるとはよもや想像もしなかったのである。
めぼしい新刊書店に行くと、「今月の掘り出し本」という新潮文庫専用の小さな平台が設置されている。ここ何年か、毎月この平台には文字を大きくして改版した旧作や、帯を新しく付けた推薦本などが並べられる。このラインナップは意外に質が高く、毎月何が入るか楽しみにしているのである。
べつに老眼であるわけではないが、文字が大きくなったとあると、それまで文字の小ささが気になって読みかねていた本を読んでみようという気持ちになる。
山本周五郎『小説 日本婦道記』*1新潮文庫)もそんな一冊だった。
読み終えてから知ったことだが、本書で山本は直木賞に推されたけれども固辞したといういわくつきの作品で、なるほどストーリーテリングに秀でた傑作という印象を持ち、感動したのだった(感想は4/15条)。
もっともその後読んだのは『寝ぼけ所長』*2青べか物語*3(ともに新潮文庫、感想はそれぞれ5/3条、5/11条参照)の二冊のみ。
書友の皆さんからの教示を得て、傑作の誉れ高い『さぶ』や、『小説 日本婦道記』に漏れた作品を拾遺した『髪かざり』を購い、また、こちらも改版された代表長篇『樅の木は残った』など何冊か買い求めたけれども、集中して読むまでには至っていない。
天守閣”ともいうべき『小説 日本婦道記』『青べか物語』へ奇襲攻撃をかけ敵を驚かせ、すぐに兵を引いて今度は地道に外濠を埋める作業に入るべく準備中といったところだろうか。
木村久邇典さんの評伝三部作(『山本周五郎 青春時代』『山本周五郎 馬込時代』『山本周五郎 横浜時代』福武文庫)や愛弟子だったという土岐雄三さんの評伝(『わが山本周五郎』文春文庫)も幸い入手できたので、いずれゆっくりと“本丸御殿”に当たるだろう『樅の木は残った』『さぶ』を読みたいと思う。
獅子文六の場合と同じく、『青べか物語』は直後に森繁久弥が青べか先生を演じた映画(川島雄三監督)を見ることができた。芳爺さんの東野英治郎と老船長を演じた左卜全だけがいまでも妙に印象に残っている。

*1:ISBN4101134081

*2:ISBN4101134359

*3:ISBN4101134030