関東大震災補遺

写真で見る関東大震災

今年は関東大震災から80年目という区切りの年にあたる。
今年に入って“関東大震災の文学誌”という、震災について触れている文学作品を集めたコンテンツを作成し、また『BOOKISH』の3・4号二号にわたり「関東大震災について」という文章を書いたので、いかにもこの機運に乗せられて興味を抱いたように思われるかもしれないが、じつはこれとはまったく無関係に震災へ興味を持ったのだった。
実際『BOOKISH』3号が出たのは昨年11月だ。興味をもった次の年がたまたま80年目にあたったに過ぎない。
その80年を機に、小沢健志編『写真で見る関東大震災*1ちくま文庫)という本が出た。編者の小沢さんは写真史家。
本書は書名にもあるように、地震発生直後の瓦礫と化した被害地域や焼け出された罹災者、復興建築として有名なバラック建築や復興のなかで生きる人々を撮影した写真と関連する文章から構成されている。
興味を惹いたのは、金子隆一さんという写真史家の「震災という「日本」をとらえるまなざし」という文章だ。
震災の起きた大正12年(1923)という時期を、都市の大衆層がカメラを持って写真を撮ることが身近になった時代と位置づけ、そうしたなかの一人が撮影しながら長らく埋もれていたままだった震災直後の写真を初めて紹介したものである。これまでよく見ている報道写真とはまた異なったアングルや対象の写真が多く、これを見るだけでも一見の価値がある。
武藤康史さんの「里見紝関東大震災」は、里見が家族を逗子に置いて震災時妻以外の女性と東京の待合にいたというエピソードを紹介しつつ、里見文学に登場する震災について論じている。
これを見ると里見はかなり震災を作品に取り入れていることがわかり、“関東大震災の文学誌”の作成者としては彼に興味を持たないわけにはいかなくなる。
195頁にある「義捐金リスト」も見ていて飽きない。筆頭は五百萬圓の岩崎小彌太男爵と三井家。金額的には三百萬圓の安田善次郎と財閥が続く。
ただしリストの三番目は十萬圓の徳川義親侯爵。その他鍋島・毛利・前田・島津・酒井・浅野と有力旧大名家の名前が見える。義捐金を出すのが旧大名家の義務だったのか、実際資産家だったのか。江戸のおもかげが震災まで残っていたことの一端を示す事例だろうか。