中年親父の哀愁

活字学級

体調が万全という日がない。調子が悪いと気分も落ち込む。「死」というものが頭を支配する時間が多くなってきた。中年への変貌をいやおうにも感じさせられる。30代なかばにしてこれだから、この先いったいどうなってゆくのだろう。
さらにこんな気分に追い打ちをかけるような本を読んでしまった。目黒考二さんの『活字学級』*1(角川文庫)である。
本書は、書名の「学級」、第一講から第三十講までの「…について」で統一される目次、間に五つの「特別講義」がある。
それでは目黒さんは本書を通じて何を講義しているのか。カバーなどには「スーパーブックガイド&エッセイ」とある。それでは読書についての講義なのか。それも間違いではない。目黒さんが本書で真に説いているのは、「中年学」ともいうべき中年親父の悲哀なのである。
このことはタイトルを見るとわかる。「浮気心」「良き妻」「老年」「親と子」「死」「父」「若い日々」「病気」「ダメ親父」「初老の恋」「わが子」といった単語がずらりと並ぶ。
本書を執筆したとき目黒さんは40代半ば。小学校の息子2人をもつお父さんであった。旧友と出会って、自らの青春時代の甘酸っぱい思い出に包まれた恋愛や友人たちとの交遊をふりかえり、また下腹が出てきた自分をかえりみて、子供だった自分から見た親の姿を思い出す。息子たちの他愛のない会話を耳にして彼らの将来に思いを馳せる。
エンタテインメント小説は、そうした中年親父になった自らの感懐を客観化するために引きあいに出される。読書エッセイという点よりも、こんな目黒さんの深い嘆息が心の奥にずしりと突きささってきた。

そして自分が子を持つようになって初めて、親の哀しみを理解するのである。自分が親から去っていったように、今度はわが子が自分から去っていく。仕事で帰れない夜、「お父さん、いつ帰ってくるの?」と母親に訴える幼い子も、やがて私を忘れていくだろう。私が父を忘れていったように、いつか私にもそういう日がくる。そう思うだけで、胸がいっぱいになる。今、私の目の前にある愛らしい笑顔はこの瞬間だけのものだ。そう思うから何気ない文章もぐさぐさとくる。(「父について」)
息子を持つ父の哀しみは代々受け継がれる。哀傷に満ちた目黒さんの文章は私の心にぐさぐさとくる。世の本好き「中年親父」に薦めたい本である。