お洒落なゴルフ小説

四千文字ゴルフクラブ

先日書いた山本夏彦さんの『私の岩波物語』(文春文庫)は電車本だった。電車本にしては重めの内容だったので、次は軽い物を読もうと思った。そこで選んだのは佐野洋さんの『四千文字ゴルフクラブ*1(文春文庫)である。
佐野さんの本を読むのは2冊目。最初に読んだ『内気な拾得者』を読んだときの感想は、今年の3/15条に興奮しながら記している。それ以降、目についた佐野作品を極力集めるようになった。集めたものをとりあえず妻の電車本として提供したところ、やはり面白いとのこと。妻に貸して彼女が読み終えたら、何だか自分も読み終えたような気分になっていけない。自分でも読まねば。
上記3/15条でも書いているが、佐野洋という推理作家を意識するようになったきっかけが、本書『四千文字ゴルフクラブ』だった。今回ようやく縁あって同書を入手し読むこととなったのである。
一読、期待どおりの内容だった。軽妙でセンスのいいコント集。書名のとおり、本書はゴルフにまつわる短篇(四千文字=10枚)ばかりを集めたゴルフ小説集で、全27篇が9篇(ホール)ずつ「佐久良」「野菊」「洋蘭」の三つのコースに分かれるという、遊び心に富んだ趣向が凝らされている。
私はゴルフをしない。昔練習場に何度か行き、遊びでボールを打ったことはあるけれども、コースに出たことはない。何となく上流階級のスポーツだという固定観念があって、近づきがたいのである。
本書の各篇を読むと、なるほどゴルフ場の制度はこうなっているのかと初めて知った事実が多い。会員とフリーの差、ゴルフコースは、会員によって構成されるコース委員会など各種委員会によって自治的(民主的)に運営されることなどなど。
ゴルフといえば、いまだに「接待」という言葉がまとわりつく。本書各篇でも、ゴルフを通して会社の上下関係や取引先との関係などが描かれる。また老年を迎えた同級生同士がゴルフの同好会を作るといったパターンも多いようだ。ゴルフというスポーツを通じてそんなさまざまな人間関係が浮かび上がる。
ミステリ色の濃い「マムシに注意」、ほろりとさせられる人情噺「特別記念修理地」、シンクロニシティをテーマにした「川津博士の秘密」などなど、佐野さんが繰り出すあの手この手に小説を読む愉しみを味わった。