週明けと週末の落差

山口瞳さんの『月曜日の朝・金曜日の夜』*1新潮文庫)を読み終えた。
この文庫版は、もともと『月曜日の朝』『金曜日の夜』という別の二冊の本を合本したもので、それぞれの部分に付されている「あとがき」によれば、前者は昭和48年の一年間『週刊朝日』に連載され、後者は翌昭和49年の一年間同誌に連載されたものである。一年ずつ別の総タイトルが付され、二年間続けて連載されたわけである。
タイトルも「月曜日の朝」「金曜日の夜」という相互に無関係ではないと思わせる内容だが、実は中味はかなり違う。前者は山口さんの言葉を借りれば「一種の連作随筆集」であり、それに対して後者はかなり小説に近い。「小説に近づけたいとは思ったけれど、小説にしてしまいたいとは思わなかった。それならそれで、別の書き方がある。自分の腕力を棚にあげて言うならば――。実際、これは、自分でも何と名づけていいかわからないようなものになってしまった」というもの。
私は山口さんの『酒呑みの自己弁護』(新潮文庫)というエッセイ集が大好きだ。かつて本書の感想として、「テーマが「酒」に絞られていることで、一本きちっと筋が通り、締まりのある好エッセイ集」と書いた(旧読前読後2001/8/25条)。
その意味で、中央線の通勤風景をたくみにスケッチした『月曜日の朝』は、テーマが「通勤」(ないし電車・中央線)に絞られていることで、一本きちっと筋が通り、締まりのある好エッセイ集であるといえる。『酒呑みの自己弁護』と同じように私の好みである。
『月曜日の朝』に入れあげてしまったためか、対になるべき『金曜日の夜』は締まりという点では著しく見劣りしてしまう。「金曜日の夜」、すなわち一週間の仕事を終えて酒を呑む、そんなサラリーマンの酒飲み連作小説であると同時に、登場人物がほとんどあだ名で呼ばれる「山口瞳的共同体」(2003/2/13条)の小説でもある。
「あとがき」には「ここでは、私は、自分の住んでいる町のことを書いた。町の人々のことを書いた」とある。やはり『わが町』の二番煎じの感はぬぐえない。
『月曜日の朝』がすこぶる面白いエッセイ集だっただけに、落差を感じたまま文庫本を読み終えるのは残念というほかない。