ナンバーワンにならなくてもいい

二列目の人生

SMAPの「世界に一つだけの花」は心に沁みる。何でもかんでも競争競争で人を押しのけることだけが価値あることではないだろう。競争原理に支配される人間は、その傍らで何か大事なものを失っているのではないかと思えるし、そういう組織からは「自由」というよりは息苦しさを感じる。
最前列に位置して世の脚光を浴びるのはたしかに素晴らしいことだ。ただそこに隠れてひっそりと暮らしたいという立場にも存在意義を認めてもらいたいものである。このヒットは私と同じような考えを持つ人が存外多いということだと思う。
池内紀さんの新著『二列目の人生 隠れた異才たち』*1晶文社)はこうした風潮にタイミングよく刊行されたポルトレ集である。などといってしまうと、池内さんの本意に違うかもしれない。
そもそも本書に収録されたエッセイは古くは1994年に発表されたものであり、その頃から池内さんは「二列目」に位置する人に注目していたのである。また「あとがき」には本書の意図としてこんなことが書かれてある。

ゆたかな才能と勤勉さ、みずからであみ出した方法。何も欠けるところがなかった。ただ貧しさに足をとられた。あるいはせっかくのチャンスに「中央」に出そびれた。世間に妥協するのをよしとしなかった。意固地になったり、時流に逆らった。あるいは、わざと無視した。世にときめくよりも、自分の世界を大切にした。
自ら二列目たることをよしとした人もいれば、最前列に出たくても諸事情で二列目に甘んじた人もいる。しかし「二列目の人生」だって最前列のそれにひけをとらないことが、本書を読むとよくわかるのである。
取り上げられている人は、大上宇市(南方熊楠)、島成園(上村松園)、モラエスラフカディオ・ハーン)、秦豊吉森鴎外)、篁牛人(棟方志功)、尾形亀之助宮沢賢治)、橋爪四郎(古橋広之進)など。( )内は最前列にいた人である。
そのほか気になったのは洲之内徹小野忠重中尾佐助小野忠重は、先日読んだ坪内さんの『新書百冊』のなかで著書『版画』が絶賛されていたので名前を憶えていた。また中尾佐助の場合、本書を読んで、十年くらい前に買った著書『花と木の文化史』(岩波新書)を書棚から探して埃を払った。いま俄然二列目の異才たちに注目である。