学生女房幻想

「奥様は大学生」(1956年、東京映画・東宝
監督杉江敏男/脚本長瀬喜伴/音楽神津善行香川京子木村功中村メイコ宝田明藤原釜足河内桃子北川町子/加藤春哉/太刀川洋一/瀬良明

麻布出身の川本三郎さんが、麻布の先輩たちが何らかのかたちでかかわっている映画を選んだ面白い特集企画。麻布という学校の自由な雰囲気が伝わってくる。
「おさな妻」という言葉にときめかない男がいるだろうか。好きな女優さんが若奥様役を演じるだけでなく、学生という設定(つまり学生結婚)であるということにドキドキする。たとえば長澤まさみ綾瀬はるかが奥様役で、実はまだ学生である…なんて設定は、ちょっとそれだけで(男の)観客が増えそうだ。
大好きな香川京子さんがそういう役柄を演じる作品、タイトルを知ってからというもの、かねがね観たいと思いつつ、ようやくその念願が叶った。旦那さんは大学の先輩で、すでに卒業し就職が決まった木村功。就職が決まったことを機に結婚を申し込まれ、ひと晩考えさせてと応じる香川さんが可愛い。
通っているのは早稲田大学。ちゃんと大隈講堂や、大隈重信像が建つキャンパスも映されている。二人が住むのは、電報の住所によれば「中野区新井薬師町」。高架の線路が近くを通り、ふもとに公園がある石段を登った上にアパートがある。この場所、いずれは探索してみたい。
当時は学生結婚は珍しくなかったのだろうか。香川さんのまわりの女学生はたいてい結婚している。未婚で彼氏もいない中村メイコが逆に子供扱いされる始末。しかし中村メイコさんはいまと変わらないなあ。そしてこういう香川さんの引き立て役に回るあたり、いかにもなのだが、不思議にキュートで気になるタイプでもある。
せっかく就職できたのに、仕事は封筒の宛名書きや伝票作成だけという木村功は、伝票のケタを間違って課長にひどく叱られる(大学卒の木村をいじめる課長が瀬良明。これまたいい)。クサってやけ酒をあおり、試験勉強で夜中まで起きている妻に対し、シェークスピアなんて勉強して会社で何の役が立つんだとくだを巻く。このあたりの木村功の演技がなかなか軽妙。
可愛い香川さんを奥様役にして、しかも学生にしてみようというワン・アイディアの映画なのかもしれないが、香川ファンとしては、別にそれでいいのである。