映画を愛する人のための映画

  • MOVIX亀有
ザ・マジックアワー」(2008年、東宝・フジテレビ)
監督・脚本三谷幸喜佐藤浩市深津絵里妻夫木聡西田敏行寺島進小日向文世綾瀬はるか戸田恵子伊吹吾郎浅野和之市村萬次郎柳澤愼一香川照之甲本雅裕近藤芳正梶原善谷原章介寺脇康文堀部圭亮中井貴一唐沢寿明鈴木京香天海祐希山本耕史市川亀治郎市川崑梅野泰靖小野武彦

わたし以外の家族三人が、今日初日の「ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌」を観るというので(妻は二人の息子に引っぱられ、渋々だったが)、ちょうどいい機会だから、ほぼ同じ時間帯に上映される「ザ・マジックアワー」を観ることにする。公開以前から観たいと思っていた作品、ずるずると先延ばしになって、そろそろ二番館行きになりそうな時期に間に合った。
同じ映画館に来た家族が別々の上映作品を観ることができる。シネコンの長所はこういうところにあるのだろう。また多少観る映画の時間がずれても、待ち時間適当にひまをつぶせる場所がある。大型ショッピングモールにシネコンが併設されているという利点もここにある。
さて「ザ・マジックアワー」、期待どおりの面白さで、涙が出るほど笑わせてもらった。それと同時に三谷さんによる周到な脚本、細部をおろそかにしない演出にも舌を巻いた*1。「守加護」という、日本のようで日本でなく、かといって海外かといえばはっきり首を縦にふることもできないような無国籍な町、「まるで映画の書き割りのようだ」という楽屋オチの台詞が綾瀬はるかの口から語られる、まさにオールセットの町のみで繰りひろげられる*2。一種のシチュエーション・コメディと言ってもいいのだろう。
映画に撮し込まれた時代風俗、風景描写に心奪われる傾向にあるわたしだが、これとはまったく対極にある本作、それゆえに面白さはシナリオ次第となるわけで、そのシナリオが素晴らしいから、風俗描写、風景描写の有無などまったく気にならなくなる。
売れない三文役者、むかしのギャングアクション映画をこよなく愛する主人公の村田大樹こと佐藤浩市。映画の世界を舞台にし、その世界と現実のギャップが生むおかしさを絶妙に描き出す脚本の妙。映画を愛する人のために作られた映画である。
近いうちもう一度観ようと思っているが、気になった役者さんを少しだけ。まず浅野和之さん。前々からいろいろなドラマで観た俳優さんではあるが、はっきり存在を意識したのはつい先日のこと。テレビドラマ「古畑中学生」だった。
今回の「ザ・マジックアワー」でも重要な役どころ(!)で出演しているが、ホテルの片隅にいる彼は、宮口精二のような存在感を持っている。その後舞台俳優としてたいへんな力のある方なのだと知った。なるほどしかり。
もう一人、歌舞伎役者の市村萬次郎さん。十七代目羽左衛門の長男としていずれ十八代目を継ぐはずの人で、歌舞伎では女形の役者さんだが、くりくりした大きな眼、はっきりしすぎる口跡が逆に災いし、それゆえ個性がありすぎて、時代物にせよ世話物にせよ、キャラクターが歌舞伎の世界に融和しない印象があった。
その彼はこの映画で、西田敏行率いる組織の会計係として登場する。禿げて丸めがねをかけた、風采の上がらない、いかにも実直そうで堅気の人。「どこかで見たことがあるような気がするけど、はて誰だっけ」と訝しんでいたが、エンドロールで出演者の名前を見て、それがようやく市村萬次郎さんであることを知って、膝を叩いた。
以前三谷さんが市川染五郎に書き下ろした歌舞伎「決闘!高田馬場」に出演して、そのキャラクターが注目されての出演らしいが、この役に市村萬次郎さんを持ってきた三谷さんの発想が素晴らしい。

*1:一例をあげれば、CMフィルムの使い方、佐藤浩市が持つライフル入りトランクの重さを表現する演技、ラストの寺島進の動き。

*2:ただ、主人公村田大樹がマネージャー小日向文世と一緒に守加護の町にやってくるシーンはロケのような風景だが、これはどこの町なのだろう?