引揚者家族の苦難

「黄色いからす」(1957年、歌舞伎座・松竹)
監督五所平之助/脚本館岡謙之助・長谷部慶治淡島千景伊藤雄之助/設楽幸嗣/久我美子田中絹代沼田曜一中村是好

満州から引揚げてきた伊藤雄之助と、彼を待っていた妻淡島千景、一人息子設楽幸嗣の寂しさただよう物語。
息子設楽幸嗣は父の顔を知らない。母一人子一人で戦争をしのぎ、母に甘え、母を支えて生き抜いてきた。そこに満州から父親が帰ってきたことで、子どもの心のなかに起こる動揺が、学校で描く絵の色づかいの変化によって見えてくるというユニークな趣向。
そうした子どもの変化を心配する優しい先生に久我美子。鎌倉が舞台なのだが、ある日久我は一身上の都合で退職し、実家の三崎に帰らなければならなくなった。海岸べりにある三崎行きのバス停で別れるシーンの美しさ。思わずその後子どもたちを連れて鎌倉の海岸に遊びに行ってしまったほど。
引揚げて、戦前勤めていた会社に復籍できたのはいいものの、その流れについて行けず、後輩だったが追い抜かれてしまった上司多々良純に嫌味を言われる伊藤雄之助の茫洋とした雰囲気がいいし、そういう多々良純の役もまた絶品。