女優の活かし方

「女の暦」(1954年、新東宝
監督久松静児/原作壷井栄/脚本井出俊郎・中河百々代/杉葉子香川京子田中絹代轟夕起子/花井蘭子/三島雅夫/十朱久雄/舟橋元/細川俊夫/三好栄子/清川玉枝
「女囚と共に」(1956年、東京映画・東宝
監督久松静児/脚本田中澄江原節子田中絹代久我美子香川京子木暮実千代岡田茉莉子浪花千栄子/安西郷子/淡路恵子千石規子杉葉子中北千枝子菅井きん/十朱久雄/滝花久子/上田吉二郎/伊豆肇/清川玉枝/谷洋子/加藤春哉/小杉義男

久松静児監督の香川さん出演作二作を続けて観た第一印象は、「久松監督は女優の使い方が上手」ということだった。脚本の力もあろうが、どの女優さんにもはっきりとしたキャラクターがあって、見せ場がもうけられている。
瀬戸内海の島に住む若い姉妹が親の法事を営むため、すでに結婚し島を離れて暮らしている他の姉たちを呼ぶことで起こる出来事を描いた「女の暦」。島に残っているのは、小学校の先生として仕事に打ち込んでいる姉杉葉子と、彼女を支える穏やかな妹香川京子。はきはきとした杉葉子とおっとりした香川京子の対比。
十人きょうだいがいたが、残っているのは五人だけ。長姉は広島で暮らす田中絹代。次姉は東京の轟夕起子、三姉は大阪の花井蘭子。田中絹代は貧乏暮らしで息子たちと冴えない亭主(十朱久雄)を持ち、青息吐息で暮らしている。次姉轟夕起子は夫がインテリ左翼で現在収監中というインテリ風のバイタリティある女性で妹たちにも信頼されている。三姉花井蘭子は夫三島雅夫から虐げられ離縁したいと思っているができないという意志の弱い女性。
小豆島でロケされたのだそうで、同時期木下恵介監督の傑作「二十四の瞳」(奇しくも原作は同じ壺井栄だ)もロケをしていたという。木下監督が小豆島の風光明媚な場所で先にロケしてしまうので、久松監督がロケ場所を選ぶのに苦労したというのは、香川さんの『愛すればこそ―スクリーンの向こうから』にある話。
末娘である香川京子が産まれたときのエピソードを姉妹みんなでふりかえる回想シーンに思わず涙してしまった。亡き父親がたくさんの子どもたちを前に、「五人いれば五つの楽しみ、十人いれば十(とお)の楽しみ」と語る台詞が印象深い。子どもをもつ親としての至言。
「女囚と共に」はさらに豪華。女子刑務所が舞台で、所長田中絹代、保安課長原節子という布陣がまず圧倒的。原保安課長の下で看守のリーダー的存在なのがいまもご活躍の菅井きんさん。原節子菅井きんが並んでいるシーンが多く、妙に感慨深い。
原節子は「女の暦」の杉葉子以上に仕事一途なタイプ。刑務所敷地内の官舎で老母滝花久子と二人住まい。元服役囚だった杉葉子が女中として働いていたが、結婚のため出て行くことになる。田中絹代は服役囚たちの更正に熱心で、所内に美容院を設け、彼女たちが刑期を終えたあとの仕事に困らぬよう、手に職を付けさせようとする。
それを設けるためには厚生省の認可が必要で、視察のため役所から伊豆肇がやってくる。この伊豆肇は実は原節子の昔の恋人で…。というのがロマンスとしての味付けをしている。
何といっても圧巻なのは、豪華女優陣による女囚たちのキャラクター。何をするにも原節子に反抗的だったが、最後に改悛するのが久我美子。小悪魔的。これと対照的なのがやはり香川京子。模範囚。女囚の更正に力を入れる後援者清川玉枝の紹介で、釈放とともに結婚が決まり、刑務所から花嫁衣装を着て出て行く。角隠しをかぶった香川京子をやさしく見守る田中絹代、まるで成瀬巳喜男監督作品「おかあさん」を観ているかのようだった。
香川京子と同室の模範囚木暮実千代も印象的。男の子を産んでまもなく服役して数年、子どもに会いたがっているが、保育所ではなかなか面会に連れてこない。ようやく面会が叶ったのはいいのだが、子どもは当然母親とは初対面で、話しかけても反応が鈍く、連れてきた先生の陰に隠れてしまう。そんな悲しさを抱える母親として、木暮実千代が絶品の演技を見せる。
まだまだたくさんいる。乳児を抱え服役した岡田茉莉子。しかし乳児が病気で亡くなってしまい、絶望して自らも命を絶つ。関西弁で溌剌さがきわだつ浪花千栄子の強盗おばさん。もうすぐ刑期満了となるのに結核で重い病床にあり、とうとう息を引き取ってしまう安西郷子。
小悪魔的な久我美子に何かと世話を焼きたがる淡路恵子。彼女はせっかく釈放されたというのに、久我美子原節子の仲を疑い、出所後官舎に待ち伏せし、原を刺してしまう。出演場面は多くないのだが、伝法で、口先ひとつで世渡りしているといったふてぶてしさが光る中北千枝子。それぞれ見事に色分けされ、見せ場があるので、二時間以上の映画だがあっという間だった。