変わらない可憐さ

「窓から飛び出せ」(1950年、新東宝
監督・脚本島耕二/脚本山崎謙太/製作・原作・出演大日向伝/轟夕起子小林桂樹香川京子/汐見洋/岡村文子/藤原釜足杉狂児
「上海帰りのリル」(1952年、新東宝
監督・脚本島耕二/原作藤田澄子/脚本椎名文/水島道太郎/森繁久弥香川京子/浜田百合子/津村謙

「窓から飛び出せ」は、香川さんの初主演映画。女優のデビュー作にありがちな、まだあどけなさの残るふっくらしたたたずまいは、私の好きな香川京子像とは異なるものの、微笑ましい。
溌剌とした轟夕起子といい、大草原の丘の上に洒落た家を構える大日向伝一家のハイカラな暮らしが清々しい。あとのトークショーで香川さんは、敗戦から五年しか経っていない時期に作られた映画としては時代が早すぎたため、あまりヒットしなかったと回想されていた。
これに対して同じ島耕二監督の「上海帰りのリル」は、可憐さがほとばしる香川京子そのもの。あの懐メロ「上海帰りのリル」に合わせて作られた映画が香川さん主演であること、知らなかった。
上海の日本人租界で出会った水島道太郎・森繁久弥の男二人と、踊り子リルの悲しい物語。三人がひとつ部屋に暮らしながら仲良くする、「ドリカム」(といっても「かつての」と形容詞をつけなければならないのが寂しい)的男女関係。そのなかで水島と香川二人に恋心が芽生えてゆく。
上海でギャングに追われる水島と香川が逃げ込んだ建物は、トークショーでの話によれば府中競馬場だったという。そうとわかって観ると、たしかに回廊や馬場に出るあたりは競馬場の風情である。
この映画は香川さん二役ということでも話題にのぼる。ギャングに追われ生き別れとなった水島は、敗戦後森繁とともに引き揚げ、戦後の混乱のなかで悪いこともやりながらのし上がってゆく。しかし上海にいた頃の恋人リルの面影が忘れられず、彼女そっくりの女性に会うという筋書きなのだが、その二役の役どころが今ひとつパッとせず、その分映画も尻すぼみ気味。水島はライバル会社との抗争に敗れ、彼を愛した浜田百合子と一緒に死んでゆくのである。前半が○、後半が?という作品だった。
トークショーで初めてナマの香川さんを見た。話し方や声の張りが若い頃の映画そのままで若々しい。目をつぶっていたら八十に近いという年齢を忘れるほど(本当)。