最新技術はまず悪用される

「電送人間」(1960年、東宝
監督福田純特技監督円谷英二/脚本関沢新一鶴田浩二平田昭彦中丸忠雄忠夫/白川由美河津清三郎堺左千夫/土屋嘉男/佐々木孝丸村上冬樹/沢村いき雄/田島義文/松村達雄天本英世

物体を空間的に隔たった場所に移動させる装置を使い、復讐を遂げようとする男(中丸忠雄)と、それを阻止しようとする側(鶴田浩二)の物語。
中丸忠雄は元兵長。敗戦直後、国家のために「電送」技術を研究していた「国粋主義者」の科学者佐々木孝丸(!)を匿って安全な場所に避難させるための護衛をつとめていた。ところが上官の将校河津清三郎や、軍属の堺左千夫らは、彼の避難を利用して軍部の秘匿していた金の延べ棒を奪取し、移送しようと画策していたのである。
正義感中丸は河津らを非国民呼ばわりするものの、結局佐々木孝丸ともども爆死させられてしまう。
…と戦後その延べ棒のために肥え太った河津らは思っていたが、実は二人とも生きており、中丸は佐々木がその後開発した電送装置を使って河津らのもとにあらわれ、殺害を企てる。佐々木は別に中丸のために装置を開発したわけではなく、中丸が佐々木に無断で勝手に利用している。
この電送装置は、送信機(佐々木と中丸が隠れ住む軽井沢にある)のほか、当然ながら受信機も必要となる。人間を送るのだから巨大で、しかも絶対温度4.2度に保つ必要があるので、大がかりな冷却装置を必要とする。だから、復讐を遂げる前に、相手にばれないようにそうした受信装置を相手の近くに送り込まなければならないのが、ちょっとおかしい。
鶴田浩二は新聞社学芸部の科学記者で、最初の犯行後焼却された冷却装置の燃え残りに不審を抱いて、捜査主任の土屋嘉男や、大学の同窓生で、土屋の上司らしい平田昭彦らの捜査に協力する。
普通の刑事事件だと思っていたら、エリートの平田まで出てきたので、鶴田は事件の背後に密輸のような国際的犯罪が潜んでいると勘づく。そのとき鶴田が平田に言った言葉が面白い。「麻薬か、それとも南京虫か?」南京虫(これは密輸ではないだろうが)というのが時代を感じさせる。
カルトスリラーで、「電送」されて半透明の状態で復讐を遂げるあたりの特撮もなかなか楽しめるエンタテインメントであった。