時代を映す時代劇

時代劇、罷通る!

「真田風雲禄」(1963年、東映京都)
監督加藤泰/原作・脚本福田善之/脚本小野竜之助神波史男中村錦之助渡辺美佐子ジェリー藤尾千秋実ミッキー・カーチス米倉斉加年/大前均/春日俊二/本間千代子/小川虎之助/明石潮/花柳小菊平幹二朗田中邦衛河原崎長一郎/水木襄/阿部九洲男/大村文武/原田甲子郎

長男が一泊二日のテニス合宿に参加した。前の日早朝新宿の高速バスターミナルまで送ってゆき、今日は21時30分頃ターミナルに着く予定だという。迎えも担当することになり、それまでどうやって時間をつぶそうかと考えると、自然に映画が思い浮かんだ。さすがにその時間まで仕事をするのは集中力が持たない。
新宿だから、たとえばラピュタ阿佐ヶ谷であれば中央線ですぐということでスケジュールを観てみると、あいにくあまり食指が動かないアニメ特集である。シネマアートン下北沢では渋谷実監督の「気違い部落」があるけれど、これだと仕事を早く切り上げなければならない。池袋の新文芸坐も古い日本映画の企画ではない。
ということで落ち着いたのは、神保町シアターの時代劇特集だった。神保町なら、終わってから都営新宿線に乗れば一本だし、上映開始時間も、終わる時間も都合がいい。上映作品は加藤泰監督の「真田風雲録」。加藤泰作品を観るのはたぶん初めてではあるまいか。
川本三郎さんの『時代劇ここにあり』*1平凡社)をめくってみると、あったあった。「異色作である」「シリアスさとナンセンスさが混在し、これまでの時代劇にまったくなかった混沌とした面白さを作り出している」という評価で、さらに前向きになる。
上映された時代のなかに置いてみると、「六〇年安保の挫折した若者たちの心情を笑いのうちにクールに描いたとして評判になった」いっぽうで、公開当時は「なんだかわからない映画」「ふざけた時代劇」と一般的には不評だったという。
たしかに破天荒な映画だった。何せ霧隠才蔵渡辺美佐子であり、猿飛佐助の中村錦之助に恋して、二人のラブロマンスがストーリーの柱の一つになるのである。「かっこよく死にてえ」が信条の、ザンバラ髪(!)の真田幸村千秋実)に従う十勇士の若者たち。大阪城中にいる上層部の面々は、下で実際に働く兵士たちの気持ちがわからない。
ミュージカル仕立てで時代考証など気にせず奔放、それが奇妙な面白さを獲得してわたしの好みに合うのだが、全体としてみればストーリーに緊張感がなく、きわめてゆるいという印象を持った。
わたしはたぶん、錦之助は晩年の大御所萬屋錦之助としてしかしらない。たとえば「柳生一族の陰謀」である。中村錦之助時代の若い彼をスクリーンで観るのは初めてだ。その印象は、とても色気がある役者さんだなあということ。いまでいえば木村拓哉のような雰囲気。仕草や喋り方に強烈な色気を感じる。