騙しのテクニック

七人の名脇役

「現代インチキ物語 騙し屋」(1964年、大映
監督増村保造/脚本藤本義一沢村勉曾我廼家明蝶伊藤雄之助船越英二/丸井太郎/犬塚弘園佳也子/中條静夫/上田吉二郎/潮万太郎

今回シネマアートン下北沢での特集「七人の名脇役」の七人とは、有島一郎伊藤雄之助桂小金治加東大介清川虹子浪花千栄子・三井弘次。このなかでは、最近もっとも気になる役者さんである三井弘次出演作品(「酔っぱらい天国」「現代金儲け物語」「気違い部落」)がやはり気になるが、作品的には、今日観た「現代インチキ物語 騙し屋」に食指が動いた。
増村保造監督に伊藤雄之助、脚本藤本義一という組み合わせ。そこに曾我廼家明蝶船越英二など、ひと癖もふた癖もありそうな人たちばかりである。果たしてそんなキャラクターの濃い騙し屋四人組(曾我廼家明蝶伊藤雄之助船越英二・丸井太郎)が大阪の町を舞台に繰り広げる騙しテクニックの展覧会の様相を呈した映画だった。
手を替え品を替え、巧妙に仕組まれた騙しによって標的から金を騙し取る。しかし頭領的立場の曾我廼家明蝶はこれは犯罪ではないのだといつも嘯いているあたりが笑える。
こんな濃い味つけの原因は藤本義一脚本にありそうだ。いままで観た増村作品と少し毛色が異なる。増村・藤本のコンビはこの作品のみではあるまいか。藤本さんといえば川島雄三作品の脚本を書いていたことで知られるが、そういえばこれを川島雄三作品と言っても通用してしまうような、しまわないような。
こういう作品に伊藤雄之助はぴったりはまるわけだが、船越英二も劣らず溌剌としているのには驚いた。さらに曾我廼家明蝶は絶品だ。金持ち風の貴顕紳士から、世の中の底の底まで見通したような刑事まで、お手のものとばかり演じ分ける。
騙しテクニックのあれこれには笑ったけれど、ストーリーとして観る者を引っぱる性質の作品でなかったためか、途中迂闊にもウトウトしてしまった。
映画と言えば、下北沢に出かけるため自宅から最寄駅前に歩いていく途中、通勤退勤のときいつも通る駅前のもつ焼屋の前あたりに人だかりがしていた。胸騒ぎがして近づいてみると、はたして何かのロケ中である。以前このすぐはす向かいの喫茶店では「自虐の詩」ロケがあり、阿部寛中谷美紀を目撃したのである(→2006/10/20条)。ロケ場所はほとんど同じと言ってよい。
今回は誰?と期待しながら、取り巻きにまぎれて注目していると、何と宮崎あおいではないか。グレーのスーツを着込んだOL風の彼女が、手帳を見て場所を探しているような雰囲気で歩いてきて、もつ焼屋の前に来たとき、「ああ、ここここ」というそぶりで店の中に入るというシーン。テストから本番まで、たっぷり観てしまう。
しかも監督は宮藤官九郎で、宮藤さんは二言三言主演の宮崎さんに状況説明のような演出を加えていた。華奢で可愛い宮崎さんに、いかにも軽快な現代的青年という雰囲気の宮藤さん。
帰宅後調べてみると、撮影していたのは、今年秋以降に東映から公開が予定されている宮藤監督第二作の「少年メリケンサック」という作品らしい。宮崎さんはレコード会社のダメOL役だそうだ。もつ焼屋を尋ねあてて入っていく雰囲気がまさにそんな感じだったから、感心してしまう。
面白かったのは、もつ焼屋の看板。ここには、店名の前に店のキャッチフレーズ「亀有の関所」とあるのだけれど、その上からシールのようなものが貼られて「高円寺の関所」に変えられていた。ふーん、ここは高円寺という設定なのね。
そういえば何かの本で、亀有と高円寺は東京の西と東にあって似ている雰囲気の町として並べられていたのを読んだことがある。ロケ地に選ばれた亀有の、しかも足立区に近い北口のこのあたりは、たしかに高円寺よりは人が少ない。土曜昼下がりの眼福だった。