団令子の媚態、中北千枝子の怪演

東宝アクション!

「地獄の饗宴」(1961年、東京映画・東宝
監督岡本喜八/原作中村真一郎/脚本池田一朗・小川英/音楽佐藤勝/三橋達也/団令子/池内純子/田崎潤/砂塚秀夫/中北千枝子/林幹/佐藤慶/天津敏/宮部昭夫/城所英夫/小串丈夫

仕事帰りに渋谷へ向かう。岡本喜八監督「地獄の饗宴」と鈴木英夫監督「脱獄囚」の二本立て。
まず「地獄の饗宴」。この映画は後半ちょっとダレるものの、中盤くらいまでが飛びきり素晴らしい。新橋駅であるフィルムを拾ったポン引き三橋達也が、自宅でそのフィルムを現像してみると(三橋は小さな写真屋を営む夢を持つ男)、そこには軍隊時代逢い引きを咎められて散々痛めつけられた曹長が写っていた。
その元曹長田崎潤。田崎は立派な身なりをして、若い女性と写真に写っている。それを強請のネタにするため、写真を丹念に検討し、田崎の現在の職業を突きとめようとする。すると田崎はある会社の社長だった。
恰好の標的を見つけたと思い会社に乗り込んだら、田崎は急死したばかりだと知りがっかり。しかしその会社で、写真に田崎と一緒に写っていた若い女性と出会う。それが田崎の秘書の団玲子。田崎を諦めた三橋は団に標的を定める。しかし仔細に写真を調べてみると…。
そんな過程がスリルに富んで抜群なのである。団玲子という女優さんはうっとりする美女ではないのだが、あのふっくらした丸顔とミスマッチなほど足が細くてスタイルがよく、エロキューションというのだろうか、喋り方が独特で媚態を含み、なぜか惹かれてしまう魅力を持っている。媚態をふりまく小悪魔的な団玲子の魅力が存分に発揮された作品。
また、この映画では中北千枝子がすごい。田崎の妻役なのだが、急死した田崎の後継社長の椅子に座り、新興宗教に取り憑かれ、笑ってしまうほど狂信的でエキセントリックな中年女性を熱演。
中北さんは、エキセントリックという言葉とは対極的な位置にある、あまり目立たない、しかし存在感があって安定感のある脇役を演じて絶品の女優さんだから、この役柄は、彼女のフィルモグラフィのなかで、ひときわ異色な作品なのではないか。異色とはいえ、いかにもというはまり具合なので、中北千枝子という女優さんの奥深さがわかる。中北さんにこんな役を演じさせた岡本監督はすごい。
そんなこんなですっかり「地獄の饗宴」を堪能し、元を取った気分になった。「脱獄囚」を観てしまうと帰りがかなり遅くなってしまうこともあって、これはまたいずれ上映される機会を待つことにする。