2007年の映画
例によって昨年一年間に観た映画を回顧したい。
本数。2004年36本、2005年80本、2006年は155本と倍々ゲームのように増えていたが、昨2007年はとうとう前年を下回った。計116本だった。それでも月平均10本ペースだから多いほうだろう。今後もせいぜいこのペースを保つのが精一杯かもしれない。
読書のほうは“隙間趣味”と称して、いつでも空いた時間にできるから、自分の生活スタイルに適合的だと思っていた。ところが日常生活の隙間が圧迫される、いや、正確に言えば、生活に余裕がなくなり、隙間を隙間と思えなくなるようにつれ、手に本を持つ時間が少なくなっていった。
逆に映画の場合、2時間なら2時間それに集中させられることにより、「ながら」が不可能になるから、自分の生活スタイルにとってあまり好ましくないものだと考えていた。
しかしながら皮肉なもので、日常生活に余裕がなくなると、逆に映画のように強制的に時間をそこに集中させるもののほうに好みが傾くようになってしまった。「ながら」を不可能な状態に強制的にさせる映画を選び、なんとか生活に余裕を生み出そうという苦心の精神均衡術だった。
だから、「ながら」可能性がわずかでも残る家での映画鑑賞にくらべ、映画館に足を運ぶ回数が多くなったのもそうした理由からに違いない。ラピュタ阿佐ヶ谷で23本、新文芸坐で9本、フィルムセンター7本、シネマヴェーラ渋谷4本、神保町シアター3本に家の近所のMOVIXも3本。実に49本もの映画を外で観た勘定になる。映画館に入ると息が詰まると敬遠していた昔がうそのようだ。
今年は読書と映画、どちらが多い少ないではなく、うまくバランスをとって愉しみたいというのが願いである。
以下データでふりかえりたい。
制作年代別では、終戦前(便宜的に1944年まで)は4本(2→5、以下同様括弧内は05→06年の推移)、1945〜49年3本(5→5)、50〜54年13本(12→19)、55〜59年41本(21→47)、60〜64年38本(20→48)、65〜69年7本(13→10)、70年代3本(4→13)、80年代0本(1→0)、90年代0本(3→1)、2000年以降7本(4→7)
06年は昭和30年代(1955〜64年)の比率が61%だったが、昨年は約68%と、この傾向にますます拍車がかかった。昭和30年代作品への傾斜が極端である。それだけ内容的にも、俳優的にも、「銀幕の東京」的にも、「昭和雑貨店」的にも興味深い映画がたくさんあるということにほかならない。
これに対して昭和40年以降の作品は極端に減った。ただ比較的最近の映画はよく観ているほうだろう。「博士の愛した数式」「明日の記憶」といった、記憶にまつわる近作を原作がらみで観ているゆえか。映画館に観に行こうと思いながら果たせなかった新作もいくつかある(「ALWAYS 続三丁目の夕日」など)。
会社別では、東宝36本(29→33)、日活30本(13→59)、大映25本(12→17)、松竹15本(10→28)、新東宝4本(9)・東映4本となった。大映の本数が増えたのは、増村保造監督作品を多く見た(「兵隊やくざ」「からつ風野郎」「親不孝通り」「美貌に罪あり」「不敵な男」「巨人と玩具」「くちづけ」)のと、野添ひとみに惹かれたことが大きい。
増村監督が出たついでに、監督別では、中平康作品も多い。「その壁を砕け」「狂った果実」「紅の翼」(2回)「あした晴れるか」(再見)「街燈」「密会」と、再見を含み延べ本数にはなるが、増村作品と同じ7本を観ている。やはりこの二監督の作品はストーリーで観る者を引っぱってゆく。ほか成瀬巳喜男監督5本、井上梅次・吉村公三郎監督4本あたりがこれに次ぐ。
「観ている間時間を忘れさせるような面白さ」をポイントに、昨年観た作品から10本を選んでみよう。
- 「鬼火」(千葉泰樹)
- 「兵隊やくざ」(増村保造)
- 「黒い潮」(山村聰)
- 「その壁を砕け」(中平康)
- 「にあんちゃん」(今村昌平)
- 「ゆれる」(西川美和)
- 「ある脅迫」(蔵原惟繕)
- 「黒い画集 あるサラリーマンの証言」(堀川弘通)
- 「地平線がぎらぎらっ」(土井通芳)
- 「一粒の麦」(吉村公三郎)
もともとミステリー・サスペンスが好きなたちだから、「黒い潮」「その壁を砕け」「ある脅迫」「黒い画集 あるサラリーマンの証言」はその好みが入っている。これに加え、活劇的な「地平線がぎらぎらっ」や「兵隊やくざ」は、主演ジェリー藤尾・勝新太郎の魅力もあわせて最後まで息を継ぐまもないような面白さだった。
これとくらべると、泣かされる映画をあまり観なかった。というより、映画を観て泣くことがなくなった。「一粒の麦」や「にあんちゃん」「しいのみ学園」が思い出される程度。
【2007年に観た映画のリスト】(※印は再見以上)
- 「銀座っ子物語」(1961年、大映、井上梅次)衛星劇場(録画HDD)
- 「浮気旅行」(1956年、東京映画・東宝、杉江敏男)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「鬼火」(1956年、東宝、千葉泰樹)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「夏目漱石の三四郎」(1955年、東宝、中川信夫)チャンネルNECO(録画DVD)
- 「東京ラプソデイ」(1936年、P.C.L.、伏水修)日本映画専門チャンネル(録画DVD)
- 「月給13,000円」(1958年、松竹大船、野村芳太郎)衛星劇場(録画HDD)
- 「カレーライス」(1962年、東映、渡辺祐介)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「音楽喜劇 ほろよひ人生」(1933年、P.C.L.、木村荘十二)フィルムセンター
- 「ニッポン無責任時代」(1962年、東宝、古沢憲吾)日本映画専門チャンネル(録画HDD)
- 「兵隊やくざ」(1965年、大映、増村保造)日本映画専門チャンネル(録画HDD)
- 「続・兵隊やくざ」(1965年、大映、田中徳三)日本映画専門チャンネル(録画HDD)
- 「十代の性典」(1953年、大映、島耕二)衛星劇場(録画HDD)
- 「四十八歳の抵抗」(1956年、大映、吉村公三郎)新文芸坐
- 「電話は夕方に鳴る」(1959年、大映、吉村公三郎)新文芸坐
- 「黒い潮」(1954年、日活、山村聰)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「新・兵隊やくざ」(1966年、大映、田中徳三)日本映画専門チャンネル(録画HDD)
- 「銀座の女」(1955年、日活、吉村公三郎)新文芸坐
- 「君の名は(第一部)」(1953年、松竹大船、大庭秀雄)衛星劇場(録画HDD)
- 「君の名は(第二部)」(1953年、松竹大船、大庭秀雄)衛星劇場(録画HDD)
- 「君の名は(第三部)」(1954年、松竹大船、大庭秀雄)衛星劇場(録画HDD)
- 「兵隊やくざ脱獄」(1966年、大映、森一生)日本映画専門チャンネル(録画HDD)
- 「悪魔の手毬唄」(1961年、東映東京、渡辺邦男)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「下郎の首」(1955年、新東宝、伊藤大輔)フィルムセンター
- 「青い山脈(前編)」(1949年、東宝、今井正)新文芸坐
- 「青い山脈(後編)」(1949年、東宝、今井正)新文芸坐
- 「その壁を砕け」(1959年、日活、中平康)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「兵隊やくざ大脱走」(1966年、大映、田中徳三)日本映画専門チャンネル(録画HDD)
- 「死者との結婚」(1960年、松竹大船、高橋治)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「天使のはらわた 名美」(1979年、日活、田中登)衛星劇場(録画HDD)
- 「月に飛ぶ雁」(1955年、東京映画・東宝、松林宗恵)衛星劇場(録画HDD)
- 「彼女だけが知っている」(1960年、松竹大船、高橋治)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「泣き笑い地獄極楽」(1955年、大映東京、浜野信彦)衛星劇場
- 「東京の人(前篇・後篇)」(1956年、日活、西河克己)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「煉瓦女工」(1940年製作・46年公開、松竹・南旺映画、千葉泰樹)フィルムセンター
- 「狂った果実」(1956年、日活、中平康)新文芸坐
- 「紅の翼」(1958年、日活、中平康)新文芸坐※
- 「にあんちゃん」(1959年、日活、今村昌平)フィルムセンター
- 「ホープさん サラリーマン虎の巻」(1951年、東宝、山本嘉次郎)日本映画専門チャンネル(録画DVD)
- 「やがて青空」(1955年、東京映画・東宝、小田基義)日本映画専門チャンネル(録画DVD)
- 「薔薇合戦」(1950年、松竹京都・映画芸術協会、成瀬巳喜男)衛星劇場(録画DVD)
- 「女の四季」(1950年、東宝、豊田四郎)日本映画専門チャンネル(録画DVD)
- 「夜霧のブルース」(1963年、日活、野村孝)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「乾杯!見合結婚」(1958年、東京映画・東宝、瑞穂春海)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「下町(ダウンタウン)」(1957年、東宝、千葉泰樹)ラピュタ阿佐ヶ谷※
- 「ゲゲゲの鬼太郎」(2007年、2007ゲゲゲの鬼太郎フィルムパートナーズ・松竹、本木克英)MOVIX亀有
- 「東京物語」(1953年、松竹、小津安二郎)NHK-BS2(録画ビデオ)
- 「0課の女 赤い手錠」(1974年、東映、野田幸男)衛星劇場(録画HDD)
- 「ゆれる」(2006年、『ゆれる』製作委員会、西川美和)衛星劇場(録画HDD)
- 「トップ屋取材帖 悪魔のためいき」(1960年、日活、井田探)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「トップ屋取材帖 影のない妖婦」(1960年、日活、井田探)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「青色革命」(1953年、東宝、市川崑)日本映画専門チャンネル(録画HDD)
- 「あの手この手」(1952年、大映、市川崑)日本映画専門チャンネル(録画HDD)
- 「お嬢さんの散歩道」(1960年、日活、堀池清)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「ある脅迫」(1960年、日活、蔵原惟繕)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「雁の寺」(1962年、大映、川島雄三)衛星劇場(録画DVD)
- 「やくざの詩」(1960年、日活、舛田利雄)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「男と男の生きる街」(1962年、日活、舛田利雄)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「女系家族」(1963年、大映京都、三隅研次)衛星劇場(録画HDD)
- 「簪」(1941年、松竹大船、清水宏)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「黒い画集 あるサラリーマンの証言」(1960年、東宝、堀川弘通)日本映画専門チャンネル(録画DVD)
- 「女の足あと」(1956年、松竹大船、渋谷実)衛星劇場(録画DVD)
- 「心の日月」(1954年、大映東京、木村恵吾・吉村廉)衛星劇場(録画HDD)
- 「愛情」(1956年、日活、堀池清)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「砂の女」(1964年、勅使河原プロダクション・東宝、勅使河原宏)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「縞の背広の親分衆」(1961年、東京映画・東宝、川島雄三)フィルムセンター
- 「河口」(1961年、松竹大船、中村登)衛星劇場(録画HDD)
- 「天下を取る」(1960年、日活、牛原陽一)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「笛吹川」(1960年、松竹大船、木下恵介)衛星劇場(録画DVD)※
- 「喧嘩太郎」(1960年、日活、舛田利雄)チャンネルNECO
- 「風流温泉 番頭日記」(1962年、宝塚映画・東宝、青柳信雄)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「風船」(1956年、日活、川島雄三)フィルムセンター
- 「青年の椅子」(1962年、日活、西河克己)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「しいのみ学園」(1955年、新東宝、清水宏)シネマヴェーラ渋谷
- 「劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド・パール ディアルガVSパルキアVSダークライ」(ピカチュウプロジェクト・東宝、2007年、湯山邦彦)MOVIX亀有
- 「黒い傷あとのブルース」(1961年、日活、野村孝)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「猿飛佐助」(1955年、日活、井上梅次)衛星劇場(録画HDD)
- 「秋立ちぬ」(1960年、東宝、成瀬巳喜男)神保町シアター※
- 「つづり方兄妹」(1958年、東京映画・東宝、久松静児)神保町シアター
- 「乱れ雲」(1967年、東宝、成瀬巳喜男)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「やっちゃ場の女」(1962年、大映、木村恵吾)衛星劇場(録画HDD)
- 「あした晴れるか」(1960年、日活、中平康)チャンネルNECO(録画HDD)※
- 「忍びの者」(1962年、大映京都、山本薩夫)時代劇専門チャンネル(録画HDD)
- 「街燈」(1957年、日活、中平康)フィルムセンター
- 「からっ風野郎」(1960年、大映、増村保造)レンタル
- 「HERO」(2007年、フジテレビ・東宝・J-dream・FNS27社/東宝、鈴木雅之)MOVIX亀有
- 「銭ゲバ」(1970年、近代放映・東宝、和田嘉訓)シネマヴェーラ渋谷
- 「結婚の夜」(1959年、東宝、筧正典)シネマヴェーラ渋谷
- 「トイレット部長」(1961年、東宝、筧正典)衛星劇場(録画DVD)
- 「明治天皇と日露大戦争」(1957年、新東宝、渡辺邦男)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「地平線がぎらぎらっ」(1961年、新東宝、土居通芳)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「親不孝通り」(1958年、大映、増村保造)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「南國土佐を後にして」(1959年、日活、斎藤武市)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「美貌に罪あり」(1959年、大映、増村保造)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「赤い夕陽の渡り鳥」(1960年、日活、斎藤武市)チャンネルNECO
- 「不敵な男」(1958年、大映、増村保造)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「巨人と玩具」(1958年、大映、増村保造)日本映画専門チャンネル(録画DVD)
- 「くちづけ」(1957年、大映、増村保造)衛星劇場(録画DVD)
- 「東京暮色」(1957年、松竹、小津安二郎)レンタル※
- 「東京の孤独」(1959年、日活、井上梅次)衛星劇場(録画DVD)
- 「ひかげの娘」(1957年、東宝・東京映画、松林宗恵)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「一粒の麦」(1958年、大映、吉村公三郎)神保町シアター
- 「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年、東宝・「ALWAYS 三丁目の夕日」製作委員会、山崎貴)レンタル
- 「博士の愛した数式」(2005年、「博士の愛した数式」製作委員会/アスミック・エース、小泉堯史)レンタル
- 「勝利と敗北」(1960年、大映、井上梅次)衛星劇場(録画HDD)
- 「今日に生きる」(1959年、日活、舛田利雄)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「不滅の熱球」(1955年、東宝、鈴木英夫)シネマヴェーラ渋谷
- 「めし」(1951年、東宝、成瀬巳喜男)新文芸坐※
- 「女の中にいる他人」(1966年、東宝、成瀬巳喜男)新文芸坐※
- 「別れて生きるときも」(1961年、東宝、堀川弘通)衛星劇場(録画HDD)
- 「密会」(1959年、日活、中平康)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「明日の記憶」(2006年、「明日の記憶」製作委員会・東映、堤幸彦)レンタル
- 「サラリーマン忠臣蔵」(1960年、東宝、杉江敏男)日本映画専門チャンネル(録画DVD)
- 「二人の息子」(1961年、東宝、千葉泰樹)チャンネルNECO(録画HDD)
- 「続サラリーマン忠臣蔵」(1961年、東宝)日本映画専門チャンネル(録画DVD)
- 「痴人の愛」(1949年、大映京都、木村恵吾)ラピュタ阿佐ヶ谷
- 「紅の翼」(1958年、日活、中平康)※チャンネルNECO
【過去の映画回顧記事】
- 2004年に観た映画:2004/12/30条
- 2005年に観た映画:2005/12/28条
- 2006年に観た映画:2007/1/3条