筧作品もう一本追加

「トイレット部長」(1961年、東宝
監督筧正典/原作藤島茂/脚本松木ひろし池部良淡路恵子/島津雅彦/浜美枝久保明沢村貞子藤木悠桂小金治/森光子/松村達雄/十朱久雄/塩沢とき

前回書いたように、筧正典監督作品は「重役の椅子」一本を観ただけでファンのようなつもりになっていたことを反省し、「結婚の夜」に引き続き、DVDに録りためていた「トイレット部長」を観た。
国鉄営繕課長藤島茂氏の著書を原作とした珍しい成り立ちの映画。池部さんの著書『21人の僕―映画の中の自画像』*1文化出版局)によれば、これを読んだ池部さんが製作を提案したのだという。
営繕課長といっても、主に国鉄駅のトイレ改修に意欲をそそぐ主人公が池部さん。トイレトイレと夫が仕事のことばかり考えているので、妻の淡路恵子は不満たらたら。
この作品で期待していたのは、駅のトイレをどのようによくしてゆくかというマニアックな試行錯誤が映画で観られるのかという点だった。その面では、たとえば便器の両足を置く場所に、そこに足を置くとストップウォッチが作動する仕掛けを取り付け、一人あたりの所要時間を測ってトイレの数を変えようとしたり、金かくしのない便器(もちろん和式)を導入しようとして、人々は扉に向かってまたがるのか、扉を背中にするのかで、扉を開けてまたがるまでの足どりをああでもないこうでもないと議論するあたりがゾクゾクするほど面白い。
自分はトイレのことを仕事しに国鉄に入ったわけじゃないと不満をもつ新入社員に久保明。彼は池部夫妻の家に間借りすることになった姪の浜美枝と恋仲になる。浜美枝はアプレな(もう60年代でもこの言葉はすでに死語?)娘。
今回気づいたのは、池部の部下の一人を演じる藤木悠さんのキャラクター。この俳優さんは、このようなサラリーマン映画の部下を演じて絶品だ。いわば「部下肌」と言うべきだろうか。
映画全体としては、マニアックな面への期待は上記の部分にとどまり、もっぱら仕事熱心で家庭を顧みない池部と淡路、ちょっと倦怠期に入りかけてきたような頃合いの夫婦に入る亀裂と、その修復というドラマが主な流れとなっていて、その点ちょっと不満が残った。
「結婚の夜」では、小泉博の出戻りの姉を演じた塩沢ときさんの美しさにうっとりしたものだが、今回の「トイレット部長」にも、浜美枝が入学する美容学校の先生として数シーンに登場。その学校で浜にご執心なのが桂小金治さん。まわりの学生はすべて女性なのに、物怖じせず美容学校で学んでいる。それだけでも風変わりな存在だ。