俳優・三島由紀夫

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「からっ風野郎」(1960年、大映
監督増村保造/脚本菊島隆三・安藤日出男/三島由紀夫若尾文子船越英二志村喬根上淳川崎敬三水谷良重小野道子/山本礼三郎/神山繁/潮万太郎/浜村純/三津田健

TSUTAYAの会員更新期限が迫っていたので、更新がてら何かDVDでも借りようと旧作日本映画のコーナーの前に立って感心した。前々から充実をはかっていた「おもひで映画館」のコーナーの充実度がさらに増していたからだ。
すでに以前からあった黒澤明木下恵介小津安二郎成瀬巳喜男野村芳太郎大島渚らの監督作品に加え、増村保造監督作品までずらり並んでいるのである。なかでも三島由紀夫主演の「からっ風野郎」が目に飛び込んできたので、思わず借りてしまった。
三島本人が唄った主題歌(作詞が三島で作曲が深沢七郎)については、決定版全集のCDで一足先に聴いている(→2005/4/20条)。脱力感をもたらすような曲調だったから、映画もその調子かと思いきや、意外に面白い。
東京帝国大学法学部で同期という増村監督から演技をさんざん絞られたという裏話がある三島主演作。臆病なやくざの二代目という設定で、対立する組の親分(根上淳)を殺しそこねて刑務所に入れられ、その出所というところから話が始まる。
からっ風野郎 [DVD]臆病なやくざという人物設定がはまっている。三島の後見人として、病を抱えた叔父の志村喬と、大学出で絶えず三島に足を洗うことを進言する兄弟分船越英二がいる。船越が大学出のインテリで学士様と揶揄されるのに対し、三島は生まれついての根っからのやくざで、小学校しか出ていない。みずから「小学士」と卑下している。
インテリの船越に反インテリの三島。バリバリのインテリだった三島にその対極を演じさせた増村監督もすごいが、ずんぐりして背が高くなく(若尾文子と変わらない)、イガグリ坊主頭でモミアゲが長く、ゲジゲジ眉、素人っぽい台詞回しの三島が素晴らしく愛すべきキャラクターで、はまり役なのである。
三島は俳優としては、二枚目・ハードボイルドという役よりも、このように純真で憎めない愛敬のあるキャラクターとして売り出せたかもしれない。二代目の役なのだが、本質的に子分肌・弟分肌というか、被虐的な、母性本能をくすぐるタイプなのだ。
三島が惚れる(三島に惚れる)女が若尾文子。三島の組がバックにいる映画館のもぎりをやっている。兄が川崎敬三で、労働運動に熱心な男という役。特別出演的な志村喬は別格として、若尾・船越・根上・川崎という当時の大映トップスターがずらり脇を固めている豪華な布陣だ。
三島と若尾が遊園地でデートする場面で、二人仲良く木馬にまたがって揺られているのが笑える。また、ラストで根上の組に雇われた殺し屋神山繁(いつもながらエキセントリックな悪役)に拳銃で撃たれ、まるで殺されるのを予期したかのように着ていた一張羅の白いジャケットを赤く染めて、デパート(東京駅だから大丸か)のエスカレーターでのたうち回りながら死んでいくシーンが秀逸だ。エスカレーターをあんなふうに効果的に使った映画はあまりない。
根っからのやくざが、真から女を愛し、ようやく足を洗おうとしたときに、組の対立のため殺されてしまうという筋は、このように整理してしまうときわめて単純だけれど、臆病で殺されまいと逃げ回っている(遊園地で根上の娘と出会うシーンなど代表的)主人公のやくざが殺されるというシーンで終わるというのも、アンチ・ヒーロー的であり、皮肉っぽい。
そのあたり増村監督が、三島由紀夫という作家のキャラクターをうまくつかんで見せたというべきなのだろう。