第90 上野浅草初めてづくし

この週末、妻が母方の従妹の結婚式に出席するため、泊まりがけで出かけることになった。子供も一緒に来ていいよとお誘いを受けたのだが、ちょうど日曜に長男のそろばん検定試験が入っていたため、長男が行けなくなった。したがってわが家は、妻と次男、わたしと長男という二組に分かれ、われわれは家で留守番することになったのである。
そろばん検定は日曜なので、さて土曜はどう過ごそうか。たまたま以前妻がもらってきたチラシに今日開催のイベントがあったので、長男を誘ってみたら、元気に「行くっ!」との返事。参加することに決める。東京メトロ主催「第14回東京メトロ沿線ウォーキング」である。
このイベントは2004年4月に始まって以来もう13回を数えているけれど、これまでまったく意識したことがなかった。年3〜4回程度開催されるのか。参加するとポイントカードをもらい、4回参加するごとに「素敵なプレゼント」がもらえるというから、一年4回というのが基本なのか。
参加といってもとくに大仰な準備は必要なく、チラシにある参加申込書に氏名・住所・年齢・性別・最寄り駅を書いてスタート時に係員に手渡すだけ。参加費無料で、別にルート中チェックポイントがあるわけでないから、やろうと思えばズルも可能である。
申込書を受付で手渡すとかわりに白いリボンをもらい、それをリュックに結わえていざスタート、ゴールしたときそのリボンを返せばかわりに参加賞を受け取ることができるという仕組みだ。今回の参加賞は瀬戸物の小鉢だった。4個ポイントがたまったら何をもらえるのだろう。
さて今回のルートは、上野−浅草。上野駅駅前にある東京メトロ本社をスタート・ゴール地点とし、合羽橋−雷門−吾妻橋隅田公園−桜橋−待乳山聖天浅草寺裏−入谷鬼子母神−上野公園というルート約9キロを歩くのである。9時から10時30分までにスタート受付を済ませ、14時までに帰ってくれば参加賞がもらえる。だからゆっくり歩いて、途中食事したり、合羽橋道具街や浅草の仲見世を冷やかしたりしても、余裕は十分ある。
妻・次男組は、たまたまスタートの時間帯に、東北の実家から上京してくる妻の母を上野駅に迎えてから、花嫁の父母の車で一緒に出かけるという予定。まるでウォーキングに示し合わせたかのようである。妻の荷物持ちと、手の焼ける次男の面倒見を兼ねて一緒に出発、上野駅で別れた。
上野−浅草ルートなんて歩き慣れた場所ばかりだろうと思いきや、たしかに上野や浅草は数え切れないくらい何度も訪れてはいるが、意外にその途中途中にある名所など初めて訪れるところが多い。
そもそも合羽橋道具街をゆっくり歩くのも初めてかもしれない。食器から台所用品、看板や敷物、椅子など、専門店が櫛比し、飲食業を始めるときここに来れば一切間に合ってしまうということがよくわかる。食品サンプルを売る店はウォーキングの参加者で大賑わいだった。
初めて訪れた(意識した)スポットを並べてみる。
雷門通り雷門そばにある久保田万太郎生誕碑。浅草寺のこんな近くで久保田万太郎が生まれ育ったのだということを実感する。
桜橋。隅田川に架かる橋のなかで、この桜橋は渡ったことがなかった。白鬚橋から勝鬨橋まで、これですべての橋を歩いて渡ったことになるかもしれない。
待乳山聖天本龍院)。歌舞伎などでおなじみのお寺。小高い場所にあるというイメージで、たしかに本堂まで石段を上ってゆくのだが、いまではまわりのビルに囲まれて小高さを実感するのが難しい。築地塀が唯一の江戸の名残だという。
浅草寺裏の「浅草寺支院二十一ヶ寺」。言問通りを東へ歩いていたら、浅草寺裏にちょっとまわりの建物からは異彩を放った、三階建ての民家ともつかぬ同じようなデザインの建物群が目にはいる。「ひょっとしてこれが…」と、帰宅後植田実さんの『集合住宅物語』*1みすず書房)を確認したところ、まさにそうだった。植田さんの本を読んで以来気になっていた場所。昭和6年(1931)に、歌舞伎座の設計で有名な岡田信一郎とその弟捷五郎によって設計された、浅草寺支院の本堂と住職住居を兼ねた集合住宅がこれである。なるほどここだったのか。
ウォーキングのコースは大通りが主だったが、横丁に目をやるとそそられるたたずまいの通りが多く、子供と来ていなければわたしはふらふらとそちらの脇道のほうへそれて行ってしまったかもしれない。
9キロのうち何キロ通過した、あと何キロと長男を励ましながら、ほとんど休まず歩きどおし、2時間強でゴールイン。
それにしても参加者の多さよ。スタート地点地下鉄上野駅では受付を待つ大行列(渋滞で苛つくことはなかったけれど)で、ウォーキングコースでも途切れることなく参加者の歩く列が。思い思いの歩きやすい軽装を身にまとった参加者は、年配の人が多い。皆さん健脚だ。わたしなど2キロくらい歩いたところ(田原町仏壇屋街辺)で最初に疲れを感じてしまった。長男も信号で止まるたびに座り込んでいる。
しかも真夏のような今日の暑さ。帽子をかぶっていなかったらリタイアしていたかもしれない。腕は日焼けでまっ赤だ。隅田川の橋や河畔、隅田公園など途中に涼しいスポットがあったためか、無事9キロを歩きとおすことができたが、歳をとって同じルートを歩けるかと言えば、ちょっぴり不安ではある。
とりあえず最初の1回をクリアしたので、少なくともあと3回、このウォーキングに参加して景品をもらうまで頑張るしかない。