GWのしめくくり

東京物語」(1953年、松竹)
監督・脚本小津安二郎/脚本野田高梧笠智衆東山千栄子原節子山村聰杉村春子大坂志郎香川京子三宅邦子中村伸郎東野英治郎/十朱久雄/長岡輝子桜むつ子/高橋豊子/安部徹

たしか先月のことだったか、思い立ってこれまでの2年間で録りためたDVDを整理した。数えてみると古い日本映画ばかりで実に480本(一枚に複数作品収める場合もあるので、枚数は若干少ない)あった。一年間で240本! いったいいつ観るのだろうかと自分でも呆れてしまう数。
まだこの程度のうちにと、録画した映画のデータをエクセルに入力し管理してみることにした。480本というのはその結果わかったことだ。この作業は、かつて録画していることを忘れダブりで録ってしまうことを回避するためでもある。いよいよ映画も本と同じような状態になってきたわけだ。
さらにこれら400本のDVDをタイトル五十音順に並べ換える作業も行なった。観たい映画をすぐ取り出すことができるようにするためである。そんなこんなで一ヶ月が過ぎ、すでに新しく20枚近くのDVDが五十音並べ換えを待っている。こんなことを続けていたら、いつか飽和状態になるに決まっている。さらにライブラリーが増えるにつれ、技術が日進月歩の昨今、いまのDVDが観られなくなるなどという恐ろしい未来もちらつく。せめてわたしが死ぬまで、いまのDVDを普通に観ることができる環境を残してほしいものである。というより、DVDプレイヤーを買い込んでおいたほうがいいのか?
まあそれはともかく、DVDを整理したおかげで、その裏側に埋もれていたビデオテープもようやく日の目を見た。そのなかにあった小津監督の「東京物語」を、この連休中に是非観ておこうと考えていたのである。初めての「東京物語」、とうとう…なのだ。小津安二郎 DVD-BOX 第三集
さすが小津監督、さすが「東京物語」。140分弱をまったく飽きさせない。90分でも飽きがくる映画もあるいっぽう、なぜこうも140分集中して観られるような力があるのか。
ナレーションや俳優の演技による筋の説明を極力省き、一ショット一ショットの映像のつながりでストーリーの流れを想像させる技量は見事というほかない。
いずれ何度か見直すことになろうから、今回初見で気になった点をあげれば、「原節子の冷笑」に尽きる。子供らを訪ねるため東京にやって来た笠智衆東山千栄子夫婦を、実子の山村聰杉村春子以上に親切に出迎えた亡き二男の嫁原節子。彼女に対し東山や笠が何度もお礼を述べるが、その都度原節子は沈黙して何も語らない。顔には「冷笑」とも言うべき笑みを浮かべる。
なぜ原節子はこういう場面で冷笑を浮かべるのか、とりつく島のない様なゾッとする印象とともに違和感をおぼえたのだが、ラストで笠に向かい自分はずるい女だと告白する場面で謎が解けたような気がした。
時々亡夫のことを忘れることすらある、今がとても不安で、このままでいいのか懊悩している。それなのに義理の父母に対してはそんなことをおくびにも出さず、二男の嫁としての勤めを果たそうとする。正直になれない「ずるさ」。あの原節子の冷笑が、ずるさを隠そうとした果ての表情であるのなら、演じた原節子、演出した小津安二郎に感服するほかないのである。
原節子尾道を発つ日の朝、末娘の香川京子が、冷たい兄や姉(とりわけ形見の話を切り出した杉村春子)をなじる場面も印象深い。杉村春子厚顔無恥な、でも大人の人間としてはすぐれて現実的な態度に、観ながら苦笑してしまうのだが、これをあとで香川京子がなじることにより、杉村春子のあの芝居が際だつという鮮やかさ。
いややっぱり日本映画の至宝だけある作品だった。